馬井太郎

鉄道員(ぽっぽや)の馬井太郎のレビュー・感想・評価

鉄道員(ぽっぽや)(1999年製作の映画)
4.2
義理の父親は、釜焚き(かまたき)からたたき上げた蒸気機関車の機関士だった。昭和天皇が東北をご訪問された時に乗られたお召し列車を、短い区間ながらも運転の栄誉を賜ったことが、生涯の自慢であった。記念に授与された勲章を見せてもらったことがある。既に故人となって久しいが、その時の嬉々とした笑顔が忘れられない。
当時の機関士たちには、定期的に運転技術の試験が課せられていた。長さの異なる丸太を数本床に立てて、発車と停車時の揺れ具合をチェックされる。丸太の太さにもよるが、長いものは少しの揺れでも倒れてしまう。乗客には、ガッタンというあの揺れ心地が汽車のいいところではあっても、機関士の技術としては、マイナス点だった。1本も倒さず、発車・停車できたら、満点がもらえる。
走行中、試験官が「はいっ」と声をかける。外の景色を見て、その時の時速・何キロかを答える。もちろん、速度計はあっても、目隠しが貼られていて機関士からは見えない。経験による勘で答える。誤差の大小が点数に換算された。
ごくわずかに残る観光・体験用の機関車、どうか全廃しないで後世まで走らせてもらいたいと、心から願っている。

映画は、現実(カラー)と回想シーン(赤系のみ残したモノクロ)とが交錯しながら進んでいく。
降旗康男&高倉健、このコンビ、とにかく、これでもか、これでもか、と云わんばかりの全編暗ぁーいシーンのオンパレード、胸が押しつぶされそうに息苦しい。
日本人好みなのだ。作品・俳優ともに、映画賞の多くを受賞している。
特に、広末涼子が、いい。終章を締めくくる二人の長いシーンが、ことさら深く心に刻まれた。

映画館での上映は、幸か不幸か、見逃している。今頃になって、ようやくDVDを鑑賞した「ていたらく」ではあるが、もし、これが、自室ではなく、街の映画館だったとしたら、終映後、外に出るとき、涙に濡れた紅い眼を、どうやって隠そうか。人に見られたくない。だから、もし、次に、大画面・大音響で鑑賞の機会があったら、「サングラス」をポケットに入れて、出るとき、さりげなく、かけよう。正直、本当にそう思いながら、DVD・リモコンのストップ・ボタンを押した。