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男はつらいよ 寅次郎相合い傘のKKMXのレビュー・感想・評価

4.3
 つらいよ4本目は劇場にて4Kバージョンを鑑賞しました。15作目のリリー3部作(4部?)の2作目にあたる本作は、相変わらずつらいよワールドを揺るがすスリリングな作品でした。


 寅ちゃんに限らず、人が成長するきっかけって、恋であることが多いと思います。寅ちゃんはマドンナたちと散々恋に破れてますが、正直異文化交流レベルで、関係性が軽いから傷つきもシリアスではないです。
 しかしリリーは違う。互いにとってのガチ恋なので、深みも重さも違うのですね。なので、正直今回は寅ちゃんもついに年貢の納めどき、永遠の少年から旅立つ雰囲気がありました。未来人だから結末はわかりますが、リアルタイムで観ていたら「ついに寅さん最終回?」くらいの感想を持ったと思います。

 一方で、個人的な意見としては、ここで年貢を納めない寅ってどうよ?という疑問もあります。大人の事情でくっつけさせずウヤムヤに終わらせたのは、基本的に自立・成長を是とする価値観を持つ俺としては不満です。
 今回、リリーとの結婚について、外堀も埋まりリリーも願っている中、猫のように逃げ出してクソみたいなナルシス台詞を吐く寅次郎は死ぬほどダサい。シリーズを守るために、寅の少年性をより病的にしてしまったように感じました。
 はっきり言って、今回の寅は挽回不能なくらいにダサかった。やはり、俺は寅次郎のことが全面的に好きではないです。優しくてチャーミングで愛に溢れていますが、彼の臆病さとそれをごまかす態度にはとても敬意は持てない。


 それなのに、俺はつらいよシリーズが結構好きで、今後も鑑賞を続ける予定です。何故か?それは寅をめぐる環境の豊かさに惹かれているからです。
 成長しない余計者・寅次郎を常にあたたかく迎え入れるとらやの面々。さくらちゃんをはじめ、みんな寅次郎を心配して愛している。タコ社長や御前様、源公などが互いを排除せずに自分の役割を果たしながら豊かな日々を送っている。このあたたかいコミュニティに惹かれるのです。
 このようなコミュニティが昔の時代にあったかは不明ですが、現在ではとても得難い。個人主義や資本主義の進化によって失われてしまった宝物なのではないか、と感じています。
 その意味では、やはりつらいよワールドはユートピア、ネバーランドですね。俺は寅次郎に憧れを抱かない代わりに、柴又コミュニティに郷愁を抱くのです。

 本作における個人的なハイスポットは、とらやの団欒でリリーが『悲しい酒』を歌う場面です。リリーがあたたかく受け入れられ、安らぎを感じているのが伝わってきて、胸が熱くなりました。泣く場面ではないが、俺は涙しました。今思い出しても涙が出る。
 受け入れられることと、受け入れる場を作ることは、幸福を作り出す大きな要素だと確信しました。あの時のリリーは本当に幸せそうでした。


 あと、本作で意外にも印象に残っているのは船越英二演じるパパ。一流企業で金持ちのパパだが、急に虚しくなり蒸発し、寅とリリーと旅をします。それがまたすげえ楽しそうで最高でした。
 寅さんは少年のままこの世に自分を定め置くことができない異界の徒です。この世の理に限界を感じた人が、異界人寅次郎(&リリー)と交流して新しい方向で成長・変容するのは妙にしっくり来ます。パパと寅さんとの交流は、この世で生き詰まった人が再度自分をこの世に定め置くために、新しい理を獲得していくプロセスが描かれていたように思いました。一見役立たずな永遠の少年の意外な良さかな、と感じます。そもそも、前文の枕詞『一見役立たず』が、すでにこの世の理ですしね(笑)


 つらいよ劇場鑑賞は初でしたが、意外なくらい笑い声が起きました。シニア層がベタなギャグで笑う笑う。なんか新鮮な体験でした。
 4Kはまぁ、どっちでもいいかな、という印象です。小津ちゃんくらい古いと蘇り度がハンパないですが、つらいよシリーズくらいだと、そこそこ綺麗くらいなので、そこまでの感動はなかったですね。
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