優しいアロエ

ストップ・メイキング・センスの優しいアロエのレビュー・感想・評価

4.3
〈『LETO-レト-』に連れられて〉

 ジョナサン・デミは『羊たちの沈黙』以外にもう一本サイコキラー映画を撮っている。トーキング・ヘッズの白熱のライブを収めた『ストップ・メイキング・センス』だ。音楽と映像が絡んだときの魔力を『LETO-レト-』に再確認した私は、劇中でも流れた『Psycho Killer』目当てに本作を鑑賞してみた。

 だが、そんなマクガフィンは呆気なく打ち砕かれる。図らずも『Psycho Killer』は本ライブの一曲目として開始早々消化されてしまうのだ。

 しかし、この曲が会場に火をつけた。デヴィッド・バーンの表情に狂気のようなものが宿る。一曲ごとにメンバーが加わっていき、黒人のコーラス隊が参入してからは音楽にも映像にもかなり厚みが出てくる。また、次第に汗が滲みはじめ、疲れが見えてくる。曲と曲の合間の沈黙に妙な緊張が走る。こうした時間の経過が生みだす高揚感や緊張を、本作はライブやフェスの類に参加したことのないインドア派にもわかりやすく伝えてくれたのだ。

 また、本作は(というより本ライブは)舞台を真っ暗にするような演出が多い。メンバーの顔が暗闇から妖しく浮かび上がる。人間の肌と闇が溶けこんだような映像感。これを90年代以前のザラついた質感で刮目したとき、私は無性に「アメリカっぽいな」と感じる。たとえばPTAやジョン・カサヴェテス、ボブ・フォッシーの作品と通ずる質感がある。映画に国のイメージを頼った映画人間の勝手なアメリカの風景ではある。

 ジョナサン・デミの活躍がどう発揮されていたかはよくわからないが、ニーショットを基調としつつメンバーを四方八方から映していく映像には打ちのめされた。無論、トーキング・ヘッズの色々な曲を知り、興味が持てたのも大収穫。若者の鬱屈とか自滅とか居場所とか、なかなか刺さる歌詞が多かった。
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