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冬の猿のHKのレビュー・感想・評価

冬の猿(1962年製作の映画)
4.0
アントワーヌ・ブロンタン原作の小説を『ヘッドライト』『地下室のメロディー』などのアンリ・ヴェルヌイユが映画化。キャストはジャン・ギャバン、ジャン=ポール・ベルモンド、シュザンヌ・フロンなどなど

戦前は大酒のみでよく中国戦線での体験をバーでだべっていた男がいた。男は戦時中、酒蔵に避難して妻に誓ってから、禁酒して妻と共に静かにホテル経営をしていた。しかし、戦後10年経ってから、ある若い男がホテルに入店する。男はスペインに先妻を置いている尖った男であった…

ジャン・ギャバンと、ジャン=ポール・ベルモンドというフランスのノワール映画、及びヌーヴェル・ヴァーグの先陣を張る俳優同士が、唯一共演した映画作品である。

年の差も10歳以上もある名優二人により描かれるロードムービー。それまでの二人の経歴からしてみれば、ノワール映画の主演級の俳優がこのような役柄を演じるのは異質のようにも見える。

二人からあふれ出てくる、人生の困難をかいくぐってきたオーラや貫禄というものが、演技から滲み出て感じ取ることができる。劇中において、二人に共通しているのは大酒のみという点だ。

主人公のカンタンは、かつての中国の揚子江での思い出に耽る。あそこで見た河の幻想的な風景が、彼を戦時中における生死を掛けた空間を彷徨う間もずっと陶酔させるために存在した。しかし、戦争が終わればその必要はない。

かつての青春の思い出に妻のために自ら蓋を閉じていいた矢先に現れるのは、我らがジャン=ポール・ベルモンド。やはりアクション俳優のせいかタップダンスなども含めて軽い身のこなしがとても印象的でしたね。

何よりも私がこの映画で一番好きなのは、二人の人間の会話のシーンですね。日本語訳者の方の語感が素晴らしいのですね。見ていて声に出しても個気味良い気障な台詞を喋ってくれます。ここでの会話劇もたまらないのですね。

二人だけでいる間、同じ匂いを感じ取ったジャン・ギャバンは次第にベルモンドに対して心を開いていく。そして禁断のお酒をとある事件を契機に二人で飲み干す。

そこからの怒涛の展開なども含めて、まるで嘗ての生き生きとした何かが二人に戻ったかのような花火の描写が素晴らしいですね。とにかくド派手に近場にエキストラも配置しながら、ロケット花火を打ち上げます。革命記念日ではないのに。何ともすさまじい。ここでの二人の生き生きとした描写も素晴らしいのですね。

全体的には他にも男にしかわからない女観、女にしかわからない男観この二つの絶対に交わらないんだけど、見ていて奥深いような作劇がとても良かったと思いますね。何よりもギャバンの奥さんを演じるシュザンヌ・フロンも良い演技をするのですよね。

この二人でしか演じることのできない貫禄溢れる人間賛歌のようなロードムービーは、次第に祭りの終わりがごとく切なさと憂いさを帯びながら幕を閉じます。やはり老いというものは必ず訪れるからこそ、そこまでにもう一回見せる青春の煌めきのようなものを、味わうのでしょうね。

冬の猿という意味は、ジャン・ギャバンが揚子江で見た猿のこと。それがジャン・ポール・ベルモンドに似ているために彼に例えたのですが、ある種の思い出を呼び起こす装置だったのでしょうね。やはりこういう部分も決まっていて素晴らしいですね。

この映画で、個人的に一番好きなのは、音楽ですね。ミシェル・マーニュによるun singe en hiver(冬の猿)という曲が素晴らしいのですよ。この映画を評価する際には不可欠なアジア的な魅力の溢れるバラードだと思います。この音楽と気障な台詞、二人の貫禄を味わうだけでも溜まりません。

いずれにしても見れて良かったと思います。やはり名作は素晴らしいですね。
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