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質屋のHKのレビュー・感想・評価

質屋(1964年製作の映画)
4.8
『12人の怒れる男』『オリエント急行殺人事件』などのシドニー・ルメット監督によるアメリカ映画。キャストはロッド・スタイガー、ジェラルディン・フィッツジェラルド、ブロック・ピーターズなどなど

ニューヨークの貧民街で質屋を営んでいるユダヤ人の男がいた。彼は誰に対しても無愛想で冷徹であった。しかしそれには理由があった。彼は第二次世界大戦中ホロコーストで家族を皆殺しにされて心を閉ざしてしまったのだ。それ以来、全ての人間を憎み金のみを信じることになるのだが…

社会派シドニー・ルメット監督の隠れた傑作の一つ。初めてアメリカが舞台でホロコーストを大々的に扱った作品でもある。シドニー・ルメット監督作品は遺作の『その土曜日~』は鑑賞したことありますけど、そこでも質屋の描写が出てくるのはこの作品のセルフオマージュからなのかな。

ハリウッド映画でおっぱい露出が解禁された初めての作品でもある。しかし、そんなサービスシーンですらトラウマになるようなルメット監督の演出が際立つ。

この映画で何度も効果的に使用されるフラッシュバックが凄い。ソルが過去に負ってしまったトラウマが想起されるような場面で何度も使用される。くどいくらいに使用されるが、これくらいがいいのかもしれませんね。

フェンスに叩きつけられる光景からゲシュタポの有刺鉄線を思い起こし、更には地下鉄でも息子がゲシュタポ行の車で圧死される光景を思い起こし、更には前述した娼婦のおっぱい露出シーンで妻が…トラウマ想起の静けさをモノクロの画面で見事に表していてそこが凄まじい。

そして、最終的には彼は失った人間性というものを取り戻すことになるのですがね。とある事件で…この人間性を取り戻す展開は『聲の形』とか『ユリイカ』とかでもありますけど、恐らくその他の映画と比較しても一番”最悪”な形で取り戻してしまうのが…故の最後の慟哭なのかもしれませんね。

この映画で個人的に引き込まれたのはやはり、世界観構築とキャラクター配置ですね。しなびたニューヨークの貧民街にポツンと佇む質屋。そんな質屋の狭くて密度のある空間に、何故か人間味あふれる人たちがソルに質を担保しに来る。

映画序盤に入ってくる人たちの今見ると若干わざとらしいんだけどやっぱり漫画とかのベタなキャラが好きな自分としては引き込まれてしまう人間味あふれる顧客の人たちですね。

若干頭に障害がありそうだけど優しそうな黒人の人と、完全に人間性を失ったソルの対比とか、ひたすら人間味あふれる顧客たちと人間味のないソルの対比がたまらん。ここにクインシー・ジョーンズの音楽も相まってよりお洒落で品の良い演出にも引き込まれますね。

そしてやっぱりソルというキャラクターにも今の自分としては引き込まれてしまいますよね。大切な家族を殺されて他の人に同情されたろうがそれすらかなぐり捨ててしまうほどの闇を抱えている様子を、ロッド・スタイガーが見事に演じています。

『俺は黒人も白人も黄色人種も差別しない。肌の色で差別しない。お前ら人間は総じて糞野郎だ。皆等しく価値がない。』という台詞は人間嫌いな自分に響いてしまいましたよ。でも実は所詮は自分が嫌いなだけの裏返しというね。

でもそんな彼に皆手を差し伸べて身近に救ってくれる存在があったんですよね…ついに人間性を取り戻しそれに気づく終盤の彼に優しく接してくれた人たちの顔の怒涛のフラッシュバックは圧巻、容赦がねえ。いっそ気づかねえ方が良かったのか?どうだったのか。

この貧民街を牛耳っていたマフィアが言っていたあの言葉が脳裏に残る。果たして最後彼の運命はいかに…という余韻が残る終わり方も見事でした。

素晴らしい映画でした。久々に心に来る映画を観れて嬉しいですね。大げさな言い方かもしれませんが、自分も人間嫌いで『人間なんて皆死ねばいい』とか思っていることが多い分、ソルのキャラクターというかロッド・スタイガーの名演技に引き込まれてしまいましたね。誰にも判ってもらいたくないんですよこの気持ち。見れて良かったと思います。
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