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MEMORIESのchi6cuのレビュー・感想・評価

MEMORIES(1995年製作の映画)
4.5
たまたまTVをつけたらWOWOWで「MEMORIES」やってて。今観ても、本当にとてつもない傑作で正直驚いてます。
鑑賞はこれで4回目。公開当時は高校生?中学生?でしたが運よく劇場で観ていました。「彼女の想いで」「最臭兵器」「大砲の街」の3本立て。いわゆる‘大友臭‘の強い短編たち。
「スチームボーイ」も「SHORT PEACE」あまり気に入れなかった私としては、この作品が最後の大友作品代表作であったように思います。とはいえ、当時は「AKIRA」「幻魔大戦」くらいしか観ておらず、鑑賞も友達に誘われたから。観た感想は「なんか、怖い」程度でした。

おそらく、大人になればなるほど深みを増す映画だと思います。この作品を一番楽しめるのは今だと思う。
1995年制作作品。当然CG技術は乏しくセル画アニメ。この独特の動きのぎこちなさと彩色の色むら、なによりどっしりと重い画の質感。セル画アニメの美しさの真髄を実感できると思います。
あのころは「劇場アニメ」というジャンルが確立していて、スタジオジブリ以外にも、TVアニメの地盤がなくとも劇場公開のみで完成する質のいいアニメ作品が数多く存在しました。
大友監督はまさにそのヒットメーカー。独特の世界観と死生観、SFというジャンルで世界の荒廃を描く思想家のようでした。

昨年、今敏展を観覧し彼の大友監督に対する憧憬を目の当たりにしたため、やはり「彼女の想いで」は胸がつぶれるような切なさを感じます。この作品、今監督作品だと思っていたら携わったのは脚本、設定なのですね。(監督は森本晃司監督)原作は大友氏の短編漫画。しかしこれが私の振れた最初の「今作品」でした。
幼き学生だった当時、私は映画にもオペラにも造詣が浅く、この作品に対する印象は「不気味」「不安」「恐怖」と今も変わらぬ切なさ。
この印象は3作品に共通しますが、当時は「彼女の想いで」をもっとも気に入った記憶があります。美しいことの恐怖を初めて感じた作品かもしれません。
そして今、この作品のこの完成度。あれから数千の映画を鑑賞しましたが、この完成度には舌を巻きます。


SFというジャンルはこの数年で日本がもっとも大きく失ってしまった才能ではないでしょうか。
SFだからこそ描けるまだ見ぬ危機、戦争の影、生命の尊さとしぶとさ。
この時代のSFアニメにはこの力強い思想と危機感が満ち溢れていました。これはスタジオジブリの作品にも言えると思います。
現代アニメにもSFは存在しますし、技術力はくらべものになりません。メッセージ性も強くキャラクターの内面描写も豊か。
しかし、キャラクターは一様に優しく物わかりがよく、弱い。等身大のキャラクターにショッキングな設定。
「頑張る」ということの絶賛。
生き抜くという意志よりも、平穏を取り戻すための戦いをしていることが多い。人々の求めるものは共感で、ファンタジーではないのかもしれません。

「MEMORIES」を今観ると、一番心打たれるのは「大砲の街」です。
幼少期に見た絵本「風が吹くとき」を思い出すような残酷な質感。悲しい色使い。人間であるかを疑わせるキャラクターデザイン。理由もわからずまだ見ぬ「敵」に大砲をコツコツと打ち続ける街に住む子供たちの見る輝かしい夢の形。
無邪気な残酷さの育つ絶望と大人たちの悲哀。
満ち満ちた世界への不安感。
この「不安感」を、自分は長年失っていたのだと、今「MEMORIES」を観て思い出し、この作品の存在意義をひしひしと感じているのです。
この不安感を、私たちはきっと、失ってはいけない。
世界を疑う心を忘れてはいけないのです。
とにかく素晴らしい作品。そして、「今」観るべき作品。
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