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ラブレスのchi6cuのレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
4.0
映画「ラブレス」鑑賞。
アカデミー賞外国語映画部門賞ノミネートのロシア映画。
離婚の決まった夫婦。2人の間には12歳の1人息子アレクセイがいる。
彼等は互いにアレクセイを引き取りたくない。
2人ともすでに別のパートナーがおり、自分達の幸せの為には息子が邪魔になる。
2人とも息子さえ生まれなければこの相手とは結婚しなかったのにと思っている。
そして、息子をどうするか、という話し合いを深夜に繰り返す。
ある日、アレクセイはそれを聞いてしまう。
その翌日、アレクセイは行方不明になる。

両親はアレクセイを身体的に虐待していない。
家庭は貧困ではなく、部屋は適度に整頓され暮らしやすそうで、息子には充分な食事、教育、清潔な服、おもちゃなども与えられ温かいベッドで眠らせている。しかし、明らかに愛していない。

アレクセイは冒頭にしか登場せず、物語の大半は捜索風景で、両親も積極的に協力する。
大変によく出来た脚本で、彼らの行動の所々から愛を手にできない色々な理由が見えてくる。
浅はかだなあ、と呆れるものの、それらは自分も経験した行為のようにも思えて気分が悪くなる。
必死に探す姿にも、どうしようもなく息子を愛する事が出来なかったんだな、ということが実感できる。潔ささえ感じる。

アンハッピーエンド。全く救われず、答えも明確に提示されない。
息子という存在さえいなければ幸せになれるはずだった両親も、望み通りの未来の中で虚無に戻る。
やはり彼らは愛せない。そして愛されない。

鑑賞後、やるせなく「本当に、『愛のない』事を描いた映画だったな」と席を立った瞬間、冒頭で両親が自分を押し付け合う口論を聞き、声を殺して泣き噦るアレクセイの悲痛な顔を思い出した。
ああ、愛せない人々を描くこの映画で、唯一アレクセイは両親を愛していて、愛されたいと懇願していたんだ、と気づいてその残酷さに絶望した。
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