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ショート・タームのchi6cuのレビュー・感想・評価

ショート・ターム(2013年製作の映画)
4.0
すごく好きなのに時間がたたないと感想をまとめられなかった。まとめられないのは「私」の感情だったんだと思う。
人生の中で幸せな経験しかしていない幸福な人は観てもつまらないだけだと思う。
でも誰かに傷つけられた経験がある人なら、きっとすごく響く作品。

10代の少年少女を収容する短期保護施設。
ケアマネージャーのグレイスとその彼氏、そして個性豊かな入居者たちを描くヒューマンドラマ。
少年少女は親の虐待やいじめから全員深く傷を負っている。しかし、傷のかばい方が全員異なる。
叫ぶ者、反抗する者、距離を置く者、笑う者、泣く者、大人になる者。
主人公グレイスははつらつとしてちょっとのトラブルでは動じない。ユーモアがあり周囲は笑いで絶えない。
そんな彼女の元に美しい少女ジェイデンがやってくる。
心を閉ざし暴れるジェイデンを放っておけないグレイスは彼女の心の闇に触れてしまう。
そして、彼女自身の闇と向き合うことになる。

誰かに、とかく愛する者に傷つけられた時、人はどうするのだろう。
怒るのか、泣くのか、もしくは信じられないと現実を受け入れず、まだその人に愛を求めて寄り添う努力をするのか。
「良い子」でいるよう努力に努力を重ね、満身創痍でそれでも愛されたいと願ううち人生に絶望してしまうのか。

傷というものは、負った経験のない人間では絶対に癒すことはできないのだと気づいた。幸福のみしか知らない人間は人を傷つける事しかできないのかもしれない。
人は傷を負うことで敏感になり、悲しみを知ることで優しくなるからだ。痛みに共鳴できない人間は心に鈍感で、無意識に、優しく、残酷に人を傷つけてしまう。
傷を持っているからこそ、傷に気づき救うことが出来るのだ。
しかし、「死んでしまいたい」と思うほど辛い経験を乗り越えても自分の不幸を誰かに分ける勇気はない。
幸せが手に入りそうになった時、愛する人と距離を置いてしまう。
相手の愛が深ければ深いほど、裏切られる事が怖い。
自分の心に何とかかさぶたを作っても中は血がにじんだままで。自分の過去を呪ってしまう。

少年少女たちは様々な方法で自分の閉ざしていた未来に向き合う。
ショートタームでの安らかな閉塞感は一時のもので、いつかは自らの力で旅立たなければならない。
正しく傷つき、正しく癒し、正しく希望に満ちた大人になるために、彼らの真摯な葛藤はストレートに胸を打つ。
絶望の淵では明日など見えず、日々が苦しくて世界なんて永遠に残酷なのだと思ってしまう。この苦しみに終わりはないと涙に暮れても、いつか苦しみは和らぐ。
それにはほんの少しの自分の勇気と、気づかなかった周囲の優しさ、そして何よりも時間が癒してくれる。
「成長」という救いが待っている。
それは大人になってなお傷とこじらせたグレイスにとっても、やっとやってきた「成長」の時なのだ。

ここまでの苦難と悲しみに共感できると言うのはおこがましいかもしれない。しかし「ショートターム」が秀逸なところはこの悲しみを描きながらも世界は常に明るく美しいのだ。
人間の、等しい優しさ、本質の安らぎを信じることが出来る。
悲しみ、癒され、成長したあとは甘いカップケーキを食べたくなる。
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