よしまる

裸のキッスのよしまるのレビュー・感想・評価

裸のキッス(1964年製作の映画)
3.9
 作品により評価の分かれがちなサミュエルフラー監督、これは初鑑賞ながら当たりだった(レートが低いw)。

 とりあえずアバンタイトルが衝撃的。かっちょいいフリージャズが流れる中、カメラに向かってハンドバッグで男を何度も何度もぶん殴る美女。キレっぷりがあまりに烈しすぎてずり落ちるヅラ。
 え?丸坊主??

 実際には禿げヅラだったそうだけれど、とにかくどんな映画が始まるのかと「全洋画ツカミはOK選手権」があれば優勝候補の筆頭だろう。

 これが後々の伏線となり、冒頭からかなりクズな警部の目を通して娼婦の葛藤が描かれてゆく。
 この警部、商売女と見抜くや権力を傘にやることやっといて捨てて責め立てる。
 恋人はボトルワインであり、妻はワインのボトル(空き瓶)である(A sweetheart is a bottle of wine, a wife is a wine bottle.)という有名なボードレールの詩を引用しちゃうくらいのクズw
 なのにもっともらしいことを言って女をたしなめ、偉そうぶる。
 はじめはこの警部が「常識人」として観客の代わりにマトモな目となり、娼婦の本性を暴くようなものを見せてくれるのかと勘違いしてしまいそうだけれど、実際にはまったく逆。

 次第に明かされてゆく女の素性、境遇を知るほどに観ている側は、この娼婦のほうに想いを寄せていってしまう。演じるコンスタンスタワーズって知らないなぁと思ってたらフォードの「騎兵隊」の人か!つい最近まで現役だったようですばらし。

 彼女は娼婦から足を洗うべく障がいを持つ子供たちの施設で看護の仕事を始めるのだけれど、先ほどの警部はそれを信用しないし、さらには創設者の金持ちと結ばれてハッピーエンドかと思いきや、ここから話がまた大きく動いていく。このなかなか先の読めないプロットも魅力的。

 周りの大人は男も女もクズばっかり、対する施設の子供たちは純粋無垢で(しかもちゃんと黒人を含め多様に描かれている)、美しい心を持ちながら不器用にしか生きられない激しくも哀しい主人公の姿にどんどん引き込まれ、最後には何か清々しささえ感じて終わる。時代劇や西部劇のアウトローなヒーローのように、黙って街を後にする、みたいな。これを64年に作ってるってカルト人気なのもわかるなぁ。

 「裸のキッス」とは、娼婦たちの間で使われる、とあるタイプの客を意味する隠語。これが物語のキーになっている。
 タイトルでエッチな映画を想像した人はバッグでどつかれてくるがよい👜