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ミニヴァー夫人のtjZeroのレビュー・感想・評価

ミニヴァー夫人(1942年製作の映画)
4.3
1939年。
中流家庭のミニヴァ―家が暮らす英国郊外の平穏な村にも、ドイツ軍による空襲が迫る…。

冒頭から快調。
ロンドンでの買い物を抱え込んだミニヴァ―夫人が、地元の駅に到着して帰宅するまでの十数分で、村人から家族の面々まで主要登場人物たちの性格から、関係性、村の置かれた時局や舞台設定まで、手際よくチャキチャキと語り切っちゃう。

サービス過剰で説明し過ぎになること無く、観客を信頼した効率的な語り口。
それによって、観る方を家族の一員、または村人のひとりとすっかり感じさせてから、戦争の影がジワジワと忍び寄る様を描く。

お話はどんどん不穏というか、ダークになっていくんだけど、観てる方の気持は幸せなまま。
だって、出来がいいんだもん。
豊かな仕上がりを実感しながら観続けるので、幸福な思いが持続。物語は暗くなってくのに、むしろ楽しいくらいの体験。

冒頭だけでなく、いいシーンがいっぱいある。
ひとつ挙げると、長男が出兵する場面。
両親も婚約者も幼いきょうだいも、笑顔で送り出す。
明るいムードで終始するのだが、全員が玄関の方に姿を消すと、画面には居間の誰もいなくなったテーブルがポツンと映る。
それだけで、今後家族を襲うであろう、不穏な影とか寂しさみたいなものがピリッと印象的に感じられる。

こんな風に思い出すと、いちいち丁寧に語りたくなっちゃうシーンが多数。
終幕の”戦意高揚”ぶりがちょっと気にはなるけど、1942年という、まさに戦争真っただ中に製作されたことを思えば仕方がない。作品の評価とは分けて考えるべき。
アカデミー6部門受賞も納得の秀作。
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