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大停電の夜にのDcatcHerKのレビュー・感想・評価

大停電の夜に(2005年製作の映画)
4.2
 『大停電』という非日常の中で、それぞれの人生が微妙に交錯し、それぞれの人生が、炙り出される。
 人間って、愚かで、弱いもので、求めて失う。そして、喪失感に打ちひしがれても、いろんなことを受け止め、受け入れて前へ進む強さもある。
 強さも弱さもあるのが人間。愛しき人間。

 かつての恋人への想いを引きずり過去に囚われているバーのマスター木戸。
 妻と不倫相手(OL・美寿々)の間で揺れる遼太郎。
 平凡な毎日の中、「ある迷い」に悩む主婦・静江。
 身勝手な生き方をして大切なもの(礼子と礼子との間の子)を失った元ヤクザ・銀次。
 過去を捨て、恋人を捨て、結婚によって心の平穏を求めた妊婦・礼子。
 遼太郎との未来のない関係に「さよなら」をするOL・美寿々。
 遠い上海の恋人に想いを馳せる中国人研修生・李冬冬。
 初めての胸のときめきに戸惑う天体マニアの少年・翔太。
 ある病気のため希望を見失っている人気モデル・麻衣子。
 見つめるだけの恋からいつまでも次の一歩を踏み出せないキャンドルショップの女店主・のぞみ。
 数十年連れ添った夫にどうしても言いだせない秘密(結婚前に不倫関係の中で遼太郎を出産)を抱える妻・小夜子。
 車作り一筋で余生は妻と楽しく過ごそうと考えていた義一。

 良いとか悪いとか、道徳的だとか、非道徳的だとか、そんなことは関係なく、誰かを本気で愛して、人から見れば阿保みたいに見えることって本当にあると思う。
 そして、お互いが惹かれあって、時間の長さに関わらず、「一緒に時を積み重ねた」と記憶が残るようなものだと、別れても、お互いの心の中で「愛された。愛した」ということが、今の自分に人間としての自信を与えてくれる。もちろん、自己中心的な愛でなく、相手を思う愛だからこそ。
 だから、ストーカーには絶対ならない。
 別れた後、心の奥底に秘めて、辛さも、痛みも、優しさも、自分だけで静かに感傷していると思う。
 
 未来のない関係に「さよなら」をするOL・美寿々が閉じ込められたエレベーターの中で、中国人研修生・李冬冬から「本気で好きになったらかっこつけてなんていられません。当たり前です」と言われる。
 身勝手な生き方をして大切なもの(礼子と礼子との間の子)を失った元ヤクザ・銀次。
 「何て無意味な生き方してきちまったんだろう」
 「俺、生まれて初めて変わりたいと思ったんだよ」

 人はいつでも変われる。自分だけが変わればいいということでなく、周りが受け止めてくれないといけないので、簡単ではないけど、それでも、その気になれば変われると教えてくれるような映画だと思う。そして、人を本気で愛することの大切さを教えてくれる映画だと思う。
 
 出演している皆さんの演技が、それぞれの人生をしっくりと映し出して本当に良かった。
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