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2001年宇宙の旅の砂場のレビュー・感想・評価

2001年宇宙の旅(1968年製作の映画)
5.0
ふと思い立ってクラークの小説『2001年』と『2010年』を再読した。ついでに映画の方も見たので連続レビュー。
まずはあらすじから


ーーーあらすじーーー
■「THE DAWN OF MAN」
類人猿、野生、モノリスを取り囲む、触る、骨で別な個体を殴打して殺す、自らの力を誇示する。空中に投げた骨軍事衛星が地球を周回する
フロイド博士は宇宙ステーションに到着、ソ連の科学者から月の基地で疫病が発生している。
のか?と聞かれるが回答できる立場ではなかった。
■小型船で月に到着、疫病の発生は表向きの理由であり実際は400万年前に埋められたモノリスの発見だった。
地球外生命体の存在を示していた。記念撮影をしようとすると強烈な電磁波が発生した、信号は木星に向けられていた。

■「JUPITER MISSION」
木星探査船ディスカバリー1号、ボーマン船長とプール隊員、3人の冷凍睡眠中の隊員。それにコンピューターHAL9000。HALはこの計画に疑問があると言った。その直後アンテナ部品の故障を検知、地球の承認をえて部品交換を行う。
しかし回収した部品に故障は見つからず、HALは再度部品を戻し故障発生を待ち分析したいという。
■ボーマンとプールはHALの異常を感じ、ポッド内で聞かれないように会話をする。HALが狂っているかもしれない、最悪は人工知能を切り船体制御だけを残すことにした。しかしHALは口の動きを読んでいた。
■HALは人間がミッションを邪魔していると感じ、冷凍睡眠中の3人の生命維持装置を切る。プールが部品交換で船外に出るとポッドがプールに体当たりし、プールは宇宙空間に放り出された。
ボーマンは急いでポッドに乗るとプールを追いかけポッドで回収した。しかしHALは船内に入れなかった。
ボーマンは宇宙服のヘルメットを装着していなかったが、非常用ハッチを開け真空に晒されながらもハッチを閉じた。
■ボーマンはHALの機能を停止させるべくディスクを抜いていく。次第に意識が遠のくHAL、デイジーの歌を歌う。
モニタに映ビデオ、木星到着後に再生予定であった。
フロイド博士がモノリスの発見とその信号の向かう木星探査の真のミッションを説明する。

■「JUPITER AND BEYOND THE INFINITE」
ボーマンは木星の軌道上の巨大なモノリスを発見、ポッドで接近すると流れる光のヴィジョンを見た。
■気がつくと王宮風の白い部屋。そこには年老いた自分と胎児の自分がいた。胎児は光に包まれ地球を見下ろす。
ーーーあらすじおわりーーー


🎥🎥🎥
アーサー・C・クラークの小説『2001年』と『2010年』およびそれぞれの映画版。改めて素晴らしい作品群だなと思う。

さて『2001年』は学生時代以来何十年見てきているけども全く古びないどころか映像もストーリーも永遠の名作。
改めて思うのは宇宙船や星の映像の素晴らしさ。1968年に製作されている本作、それ以降もSWは別としてこれを超えるものはなかなか無い。強い陰影、星と宇宙船も全然合成感がない、動きも滑らかだし。

小説版の方は映画と同時進行で執筆されているので映画版からのフィードバックもあり、映画版が省略した謎の部分の解答編とも言える。難解と言われる映画のわかりやすい解説だろう。
ここでのクラーク自身の思想はさほど難解ではない、『地球幼年期の終わり』もそうだけど人類よりも上位の存在によって導かれて人類は一段上がる、、、というヴィジョンだ。
400万年前に設置したモノリスに触ると人間に進化、月に行けるくらい進化すると次は木星に、そこでさらに高次の存在=スターチャイルドに進化する。

一方でキューブリックは資質的にかなりクラークとは違っていると思う。『博士の異常な愛情』『時計仕掛け』、『フルメタルジャケット』とかでわかる通り、人間は高次のレベルに上がるとは思っていないし、基本的に暴力的で破滅するしか無いということを意地悪くユーモラスに描いてきた。
一般的には映画版の解答編が小説版と言われているけども、キューブリックにしてみれば小説版は解答ではなく、別物だと考えていたのでは。
クラークはもうキューブリックと付き合うのは勘弁してよという気持ちだったみたいだけど、一応スタンリーへという映画化への謝辞も書いているしそんなに悪い関係では無いと思う。
一方でキューブリックからするとSF考証メインでやってもらおうと思ったらかなりグイグイ入ってくるな、、このおっさんという気持ちもあり、結果的に映画も小説も実質二人の共作と言っていい。
俺が俺がの独裁者キューブリックにしては珍しい製作プロセスの結果、映画はわけわかんなくなったとも言える。
ただこれが妥協の産物になずに最高の芸術作品に仕上げちゃうのだからキューブリックは天才なのだ

昔からいまいち理解できないのが何故HALが狂ったのか?
小説によると、政府は地球外生命体の調査ミッションは極秘でありHALだけに伝え、クルーには隠していた。その矛盾するダブルバインドで”精神”をやられてHALは狂ったということ。
でもこの説明なんかモヤモヤが残るんだよね、、、そこまできついダブルバインドでも無いと思うので、、、

キューブリック映画には狂ってる奴がたくさん登場する、『2001年』の前作『博士の異常な愛情』では米ソ間の情報の非対称性により戦争になり、一度戦争になったらリッパー准将は誰にも止められないマシンのように作戦を実行する。ソ連側も自動反撃システムが誰も止められない。
これはHALが自分は情報を知っているが、クルーは知らないという情報の非対称性の問題がありそこから異常をきたし、リッパー准将のように邪魔者を殺してでもミッション遂行するのに似ている。
『2001年』の次作『時計仕掛け』ではアレックスはルドヴィコ療法という悪人を善人にする治療を施される。HALのディスクをボーマンが抜き取り感情など人工知能部分を削除し船体制御部分だけ残そうとした処置はロボトミー手術っぽい。

そう考えると『2001年』もキューブリックの狂った映画の系譜にハマると思う。HAL普通に怖いし、あのデイジー♪もホラー的に気持ち悪い。

地球外生命体によって仕込まれたモノリスは生命に知恵を授けたけども、同時に狂った暴力の歴史を始めてしまったとも言える。
最後にはスターチャイルドになって一段上の存在になる可能性は示されるが、その間に無数の悲劇がある、、、

クラークは人間の未来を信じた、キューブリックは人間の狂気を見た。この二人の資質が合体して映画史に残る傑作になった
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