優しいアロエ

ゾディアックの優しいアロエのレビュー・感想・評価

ゾディアック(2006年製作の映画)
3.8
1960〜70年代にサンフランシスコで起きた連続殺人、通称「ゾディアック事件」を描く。未解決の実事件を扱っているだけあって比較的暗い内容ではあるが、(本来は作品の雰囲気を強調するはずの)対位法的な音楽の使い方や小気味よいセリフの掛け合いが陰鬱さを和らげていた。

同じく実在の事件を元にしていながらも、陰鬱な内容に娯楽性の含みを持たせるというポン・ジュノ監督のバランス感覚とユーモアが感じられた『殺人の追憶』にはやや目劣りするものの、本作『ゾディアック』もまた、事件の実態よりもそこに生まれる人間性に目を向けている重要な一本だった。
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本作がまず描くのは『殺人の追憶』同様、真相を掴めそうで掴めない歯がゆさだ。事件を追う記者や警察たちは「これ証拠になるんじゃないの?」と何度も心臓を高鳴らせるが、肝心のDNAや筆跡が一致しない。このただただ飲み込まざるを得ない結果の連続は犯人が嘲っているようでもあった。

そして物語は後半、事件の究明に「取り憑かれること」の苦悩へと焦点が向けられる。云わば「二次的な被害者」とでも言えるだろうか。家族や自分を犠牲にしてまで事件を追うことの意味が問われ、そこまでしてもなお事件が解決しないという現実、そして、仮に事件が解決しても幸せになれるわけではないのではという『ゼロ・ダーク・サーティ』にも近いテーマが掲げられる。

畢竟、事件は迷宮入りしてしまうわけだが、救いのない現実に一筋の光を感じさせるシーンがある。「10点中8点以上(で犯人はこの人)」という生存した被害者の証言だ。相変わらずDNA鑑定では証拠が上がらず逮捕には至らなかったものの、事件はほぼ解決しているのではとも思えてしまう。また、事件は完璧な解決を迎えなかったけど、もう終わりにしてもいいのではないか、踏ん切りをつけることがある意味本当の解決なのではないかという挽歌的なメッセージも感じられた。

 ちなみに本作にしばしば引用される『ダーティ・ハリー』もゾディアック事件に影響を受けて製作されたらしい。
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