「あなたに恋すればよかった」
主人公二人のやりとりを観ているだけで幸せになる、ロマンチック・ラブ・コメディの大傑作。
主人公バクスター役、ジャック・レモンの芸達者ぶりが最高!(ちょっとやり過ぎな)顔の七変化が楽しい。
自分の部屋を、重役の不倫部屋に提供しながら出世を目論むしたたかさ、部屋の予約が殺到するとまめに調整までする、真面目で人が良いサラリーマンを悲哀たっぷりに好演している。
シャーリー・マクレーンのチャーミングで等身大の感情表現も素晴らしい!泣き笑いの表情がとても可愛いので、誰でも恋をしてしまいそうです!
エレベーター係フラン役で、男運が悪すぎて(初キスが墓地!)いつも損ばかりしている、ちょっとふてくされた寂しい微笑みが印象的。
医者役のジャック・クラッシェンの暖かさ。素行が悪い隣人に眉をひそめながらも、助けたり忠告してくれる頼もしい存在感。お節介なおっさんぶりが良いですね。
バクスターとフラン、どちらも一生懸命ですが、なぜか上手くいかない。そんな二人が少しずつ自分にとって居心地のよい生き方を見つけていくストーリー。
各役者の軽快な芝居が心地よく、楽しく笑いながら、 ホロリとさせられる絶妙のバランス。
アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞、美術賞 (白黒部門)、編集賞受賞も納得。
この時代(1960年)にこんなに面白い映画が制作されたのは驚き!!『スパルタカス』『サイコ』『太陽がいっぱい』も同じ年制作なので当たり年だったようですね。
観た人をきっと幸せにする映画です。
会話、設定、小道具、音楽、カメラ、細かい所まで全てに気を配った演出。
秀逸なのがバクスターの独身部屋での描写。細かな演出で、男の何の感動もない日常が浮き出される。
ソファー、間接照明、レコードなどが配置された居心地よい感じの部屋だが、レモンが演じると、とたんに悲哀に満ち満ちたものになる。
レンジでチンするだけの冷凍チキンを頬張りながら、テレビ映画を観るのが仕事帰りの楽しみ方。『グランド・ホテル』の場面は、レモンの表情の変化具合とチキンを食べるのをやめるタイミングと音楽の盛り上がりが大袈裟で、つい笑ってしまう。
テニスラケットを、茹で上がったパスタの湯切りに使うところは、ちょっと馬鹿馬鹿しくもあるし、なんか寂しい。
笑いながら、はたと独りの生活感をひしひしと感じてしまう、そんな描写が抜群です。
なんと言っても名優のレモンとマクレーンの素晴らしい演技や、名匠ビリー・ ワイルダーの粋な演出を体験できる、この上なく幸せな時間を過ごせる傑作中の傑作。