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牝犬のzhenli13のレビュー・感想・評価

牝犬(1931年製作の映画)
4.4
え…なんかすごくよかった。いまの心持ちに合っていたというか。
『素晴らしき放浪者』と続けて観て、こちらはハッとするようなショットの連続とミシェル・シモンの素晴らしき放浪者ぶりだけでも十分見応えあったが、『牝犬』は語ることに重点を置いていていまの自分の心境によく馴染んだ。淡々と進むその構成は終盤に向かって重みと衝撃をじわじわと増してゆく。
『素晴らしき放浪者』と『アタラント号』の怪演しか知らなかったのでミシェル・シモンの変幻自在ぶりに驚いたが、フランスの伊藤雄之助はほんとに容貌が伊藤雄之助である。くぐもった背中と三揃いに鼻眼鏡は『ツィゴイネルワイゼン』の藤田敏八も彷彿とさせる。カモにされてるとも知らず若い女にのめり込む中年会計士の姿はとても哀れだけど味わい深い。一生拭えない痛みと罪を伴った悲しくもからっぽな解放感を漂わせるエピローグの彼の姿は『素晴らしき放浪者』のブーデュへと引き継がれる。

終盤、ショーウィンドウ越しの絵画をミシェル・シモンが眺めている。太り肉の女性の後ろ姿が描かれたそれはオーギュスト・ルノワールの作品ではないだろうか。
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