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黒いオルフェのHKのレビュー・感想・評価

黒いオルフェ(1959年製作の映画)
3.6
ヴィニシウス・ヂ・モライスの戯曲をマルセル・カミュが映画化。キャストはブレノ・メロ、マルペッサ・ドーン、ルールデス・デ・オリヴェイラなどなど

田舎から出てきた娘がカーニバルを見物するためにリオデジャネイロに向かう。そこで彼女は市電の運転手である町一番のモテモテ男と出会い、彼と恋に落ちる。しかし、実は彼女はリオに向かう際にある男に追われていたのだが…

物語自体は定番で何の驚きも感じられないようなストーリーラインであり、下手すりゃ10分ぐらいでまとめられそうな内容ではあるが、そんな薄い内容を覆さんばかりに繰り広げられる住民のダンスの光景の圧力にやられる。

そのため、見終わった後はなんかすごい映画みた雰囲気に駆られるのが、よくよく考えてみるとさして登場人物にも深入りできないので、なんかすぐに時が経てば忘れてしまいそうになる。初め3.8ぐらいに点数をしようと思っていたけど、よく考えてもうちょっと低くした。

この映画が公開された年はちょうど1959年、『大人は判ってくれない』『勝手にしやがれ』『いとこ同志』などのフランス映画界ではヌーヴェルヴァーグがちょうど勃興した年代である。

そんな年に『大人は判ってくれない』を差し置いて見事にパルムドールを受賞したのが本作なのではあるが、どうも納得いかない。トリュフォーの幼少時代の方が、明らかに心に何とも言えない重みと痛々しさを遺すだろう。

貶してるかもしれないけど、前述したとおり登場人物が皆サンバを踊っているシーンはやはりド迫力だったので、そういうのは見れて良かったと思いますよ。ただし、後年のミュージカル映画なんかと比べものにならないくらい纏まりはないのですがね。

映画内からはこんなことを言うとあれだが、恐らくマルセル・カミュが思い描く「ブラジルってリオのカーニバルがある夢と希望の溢れる元気な国だろ!こんな感じでいいんじゃね?」感が普通に滲み出てくるような適当なブラジル考証にわろける。日本を描く際にサムライと忍者出しときゃ大丈夫だろ感と似てる。

後年ブラジルの監督によりこの戯曲がリメイクされたのですが、リメイクした監督さんはウィキによると、このフィルムをリメイクした訳ではないようで。

ファベーラとかの惨状とかを見れば、こんな陽気に年がら年じゅうサンバを踊り狂う民族な訳ないだろうに。

でも、そんな空間が最早、一種の御伽噺的なファンタジー空間を醸し出していたため、一つの世界観としてはある程度完成されていたから、そんなに拒否反応を示すこともなく見ることはできましたよ。別に映画には必ずリアリズムを出せばいいだなんて思っていないんで。

役者さんたちは何だかんだで生き生きと演技していたからそんなに無理をしているようにも思えませんでしたけどね。演技というより、もろ踊りばかりだったので。陽気さとかはスペインとかポルトガル気質なのでやはりある程度は自然に出てくるのでしょうね。

にしてもオルフェの家の中がカオスやったな。犬、猫、ヤギ、鶏、色々な動物がわんさかあの小さな小屋内に入っている。人気者の男の部屋があんな感じなのって、如何にもブラジルはああいうのが普通なのよと言ってるようにも見える。

まあ、この映画はサンバはすごかったですよ。物語も最後は悲劇的に終わったので、そこもそんなに悪くはなかったと思いますね。

ブラジル人のサンバする際の腰捌きはとてもいい。
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