さかしょ

転校生のさかしょのレビュー・感想・評価

転校生(1982年製作の映画)
4.0
講義にて鑑賞。
やはり大林宣彦の魅せてくる尾道のノスタルジー、そこに重ね合わせる青春の一時の描き方は見ていて心が洗われる。しかし同時に、思春期のドロドロとした心の澱みというか、言葉にならない、言葉にできないあの渦に巻き込まれるようで、なかなか一筋縄では「青春映画」とは呼べない何かがある。故にポップカルチャーとしての映画の礎を築いた巨匠たるのだろう。
思春期というモラトリアムで、我々人間は何かしらの「理想自我」を心に描いていることだ。しかしその下図は完成していて、あとはそれを一つの作品に仕立て上げていくような時期だと自分は認識している。
だが突如として起こる「入れ替わり」、それは男らしさ/女らしさというものを無自覚に前提として置いていて、だからこそ彼らにとってはその理想自我への到達不可能さに打ちひしがれ、方やそれに適応するしかないという諦念、方やそんなものは「自分じゃない」という絶望を抱くはずだ。
だが入れ替わったことで気付かされるその前提への違和感。彼らはそんな前提などない生活の中で「自分らしさ」を見出し、本当の理想「自我」を見つけ、それを描いていったのかもしれない。そして互いの生き様を見たことによる人格愛、そこから生まれる「大好き」という純な告白は、どんなにプラトニックなことか。
「さよならあたし」「さよならおれ」、それは互いが入れ替わったことで本当の自我を見つけ、その自分に別れを告げ、青春とも決別してゆく少年少女の言葉でもある気がする。そこに合わさるモノクロの画こそ、大林宣彦の魅せる「ノスタルジー」だ。
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