さかしょ

鏡のさかしょのレビュー・感想・評価

(1974年製作の映画)
4.1
私小説的映画、散文詩的映画と言うべきだろうか。
とにかくこちらに語りかけようとして来ることはない。ただ映画作家タルコフスキーが創る、その独特で鋭利な感性でもったアヴァンギャルドな構図と長回しショットに圧倒され続けた2時間。それは映画という芸術のみに許された映像という時間イメージと運動イメージ、その二つで成り立つ独立性を如実に掘り出し、我々に提示する。風の吹く草原、印刷紙のロールが横たわる大廊下、父と母の肉体、その全てが甘美である。
だが、その後に制作背景を聞くと、見え方は一転する。タルコフスキーの幼少期を反映させたこの作品は、なるほど、だから断片的で、断続的で、判然としないのか。我々自身でさえ、子供の頃の記憶など繋がりも脈絡もないだろう。黒澤の言う通り、その一点だけを知ると急に「判りやすく」なる。その判りやすさとは、単に内容を容易に理解できるという範疇の話ではない。作品の判然としなさには判然としない理由があり、またこうして作品を構成できる。そしてこのように映画を、つくり手の内的世界の微細な部分までもモンタージュで構成できてしまう。という映画の可能性とおそろしさに、我々は直ぐ慄く。その映画という文化の偉大さに、我々は容易く気付けるということではないだろうか。我々は作品を手中に収められたのではない。寧ろ、作品はおろか、映画の尊大さに、改めて気付かされたのだ。
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