よしまる

書を捨てよ町へ出ようのよしまるのレビュー・感想・評価

書を捨てよ町へ出よう(1971年製作の映画)
3.5
 寺山修司の映画初監督作品。と、いうだけでだいたいの内容は予想できるのだけれど、まんま予想通りで、思ったほどの衝撃はなかった。

 というのも、80年代末から90年代にアングラがオシャレなものとして再認識されてしまった、そのド真ん中にいたもんだから、アバンギャルドな作風も一周回ってオシャレを狙ったアザといモノに見えてしまう哀しさがあったのだ。

 さて本編。あらすじを書こうにも物語がない。はじめから放棄されている。いきなり、いや、いきなりではなく1分間の沈黙ののち(これ映画館で観てたら困るだろうな)、画面の中の主人公が観客に語りかけるところから始まる。映画なんて虚構だという挑戦にも取れるし予めの言い訳にも聞こえる。

 問題は、自分が関西人だからなのか、東京の人の早口が何言ってんだかさっぱり聞き取れないw
 主人公は東北なまりなので当然としても、出てくる誰をとってもどう考えても人に何かを伝えようという意思は感じられない。一言一句聞き漏らすまいと画面にかぶりついても幾度となく巻き戻し(おっとテープじゃない)して聞き直す羽目になる。

 だが、、途中からもういいや!ってなったのが良かった。ただ眼に、耳に、自らの五感が感じとるものだけを受け入れ、全身に染み渡せる。ボクの場合はJAシーザーの歌曲であり、美輪明宏のお風呂のインテリアであり、人によってそれはウサギの死体であったり、平泉成のお尻だったりするのだろう。

 撮影監督は写真家の鋤田正義で、助手を仙元誠三が手掛けるという贅沢さ。ミュージカルというより、まだ世の中には少なかったミュージックビデオというほうが近い。物語を追うよりも音楽と映像に身を委ねることで忙しいくらいだ。

 結局、最後まで観ても主人公の叫びはボクには全然届かなかった。寺山修司のやりたかったことも、理解できたつもりになることは出来ても、そんな思う壺でいいものかどうか、いつまでも揺さぶられてしまう。

 たぶん、それでいいんだと思っている。