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ワン・プラス・ワンのKKMXのレビュー・感想・評価

ワン・プラス・ワン(1968年製作の映画)
3.6
Pleased to meet you,
Hope you guess my name!

 本ガーエーは偉大なるローリングストーンズが誇る稀代の名曲『悪魔を憐れむ歌』(Sympathy for the Devil)の制作過程を追った作品です。


 監督はゴダール。どうもジョン・レノンで1本ガーエー撮ろうと思ったが拒否され、ロックに無知なゴダは「まぁ似たようなグループに声掛けるか」と言ってストーンズをチョイスし、本作が出来上がったそうです。ストーンズのスタジオ風景と交互にゴダールの左翼っぽい寸劇が挟まれるという構成でした。
 とにかくこの寸劇が薄っぺらすぎて観るに耐えなかった。ゴダールは一歩間違えると死ぬほどダサくなりますね。物語を深めない作家なので、バランスを崩すと目も当てられない。2020年ワースト作品『パラダイスロスト』に勝るとも劣らないダサさ。本家でもこれだけダサくなるので、ゴダール的な手法は取扱要注意です。
 というわけで、本作ドキュメンタリーではないですが、結果的にドキュメンタリー以外の価値を見出しづらい作品だと思います。


 さて、結果的にですが、ストーンズファンにとっては非常に貴重な作品になりました。ちょうどJJFで復活した直後の時期だったのもイケてます。そして、何よりこの直後にストーンズから追放されて変死する元リーダー・ブライアン・ジョーンズの孤立した姿が残されているのも凄まじいです。

 他のメンバーが割と近くでわちゃわちゃジャムっているときに、板で区画されたスペースでアコギを爪弾くブライアン。セッション場面でも彼のサウンドはほとんど聞こえません。そして、手つきもおぼつかないんですよ。ピッキングとかも雑でぎこちなく、色んな意味で衰えが伝わりました。実際、『悪魔を憐れむ歌』にブライアンのギターは収録されてません。
 正直、このような姿を捉えたのはエゲつないです。まだ死んでないですが、ぶっちゃけ幽霊でした。
 『悪魔を憐れむ歌』を1曲目に据えたアルバム『べガーズ・バンケット』についての、ブライアンのエピソードがあります。哀れなブライアン・ジョーンズは当時のガールフレンドに「アイツらの新作、最高だぜ!」と言ったそうな…アイツら…そう、そこにブライアンは存在していない。いくら『ノー・エクスペクテーションズ』でスライドをキメていても、ブライアンはそこにはいないのです。このエピソードを裏付ける映像が、本作には哀しいことにしっかりと刻印されていました。


 そして、『悪魔を憐れむ歌』に注目したのも偶然でしょうが最高でしたね。この曲はストーンズにしてはずいぶん毛色の違うサンバビートの曲でありながら、ストーンズそのもののような魔力を持っているので。
 はじめのアレンジはフォークロックっぽいんですよ。キーボードとかが『無情の世界』みたいで。でもぜんぜん良くない。マジで駄曲でした。キースがビルからベースをブン取っていろいろ試行錯誤しますがどうもパッとしない。バラードアレンジもダメでした。
 一方で、少しずつ打楽器が加わっていきます。ミックも小さいコンガみたいなモノを叩いたり(これが上手い!おそらくボーカルより上手いな)、ベースをキースに横取りされてやることがなくなったビルが死んだ目でマラカスをつまんなそうに振ったりしてました。
 そして中盤、なんの前触れもなくパーカッショニストのロッキー・ディジョーンが加わり、突如サンバ化!キースのベースも超グルーヴし、ノリノリだ!
 プロデューサーのジミー・ミラー(と思われる人)が、「バンドっぽくなったな!」と声を上げていたのがグッときた。ホントに曲に命が吹き込まれましたから。基本ビル以外は生き生きしてた!
(状況からブライアンはメンバーにカウントしてない。ビルはグルーピーとセクロスの時のみに生き生きする、あとソロ活動ね)
 あと、ニッキー・ポプキンスのピアノは改めてカッコいいね!ロールするピアノだけど品があるんだよなぁ。そしてキースのベースが最高!キース大先生はベーシストとしても優れてますからね〜。むしろベースの方が上手いか?

 コーラスの『フッフー』のレコーディング風景を見れたのも良かった。キースとアニタが一瞬ジャレるのがなんか良い。その隣にはアニタをキースに寝取られたブライアンの姿も…ここまで悲惨なヤツはなかなかいないな、ブライアン。翌年変死するし☠️
 もうひとりの女性はおそらくマリアンヌ・フェイスフル。ドレッシーな格好で流石上流階級出身の品の良さを感じました。その後すげー声のシンガーになるとはね。

 歌詞の対訳もちゃんと出ているのが良い。人間の悪行をルシファーの名を借りて偽悪的に語る歌詞は、ブライアンの死すら糧にして新しい命を獲得していったこの悪魔的なバンドに相応しいものです。しかもサタニズムみたいなオカルトではなく、人間が持つ影を切り取ってアートにしている感じがストーンズ(というかミックだな)の真骨頂。
 我々の心には必ずルシファー的なものが眠っています。ストーンズはそれを自覚して演技的に昇華することで影と共存し、今日まで生き抜いて来たのだと想像します。『悪魔を憐れむ歌』はJJFと並ぶストーンズのタフさを象徴する曲でもあると感じています。


 どうでもいいですが、本作をおそらくミックは「クールだ」とか言って気に入ってそう。もしくは気に入ったフリしてそう。
 で、キースは「こんなゴミは時間の無駄だな!」と一刀両断してそう。チャーリーは本作の存在忘れてそう。
 ビルは本作の寸劇パートに出てた当時のゴダの妻アンヌ・ヴィアゼムスキーにセクロス挑戦するも相手にされず撃沈してそう。その代わり撮影スタッフのアシスタントの女子とセクロス決めてそう。
(とビルをクサしてますが、本作の撮影クルーの照明機材が原因でボヤが出たときに、ビルはジミー・ミラーと共にいち早くテープを持ち出して音源を守ったという勇敢な男!まぁビルにしては上出来と言えよう←とまたクサす)



【悪魔を憐れむ歌リンク集】

https://youtu.be/Jwtyn-L-2gQ
ロックンロール・サーカスでのパフォーマンス。
個人的にはこれがベストかな。
ミックの鬼気迫りつつもちょっとバカっぽいパフォーマンスがイカす。こういうリズミックな吐き捨てボーカルが彼には似合うね。
もちろんキースのギターもクール。パーカッションがいることでグンとカッコ良さが引き立ちます。思わずレノン先生もノリノリ。
しかし、ブライアンのマラカス…こんなに真剣にマラカス振る人いないよ。なんとも切ない!


https://youtu.be/W37LyeSrFTY
テイラー先生加入時のハイドパークコンサート。
珍しくキースがV弾いてる。
さすがにテイラー上手いね。新入りで真面目な人柄か、バッキングもソロも安定感抜群。キースは終盤飽きてきてソロが適当になるけど、そこがロッキンでシビれる。やはりパーカッション勢がいるとこの曲は一気に盛り上がる。


https://youtu.be/MKrb265YgZQ
対訳ついてるバージョン。歌詞も良いので注目してください。
パフォーマンスは『Shine a Light』より。ストーンズはこの頃60代。だいぶ若い頃とは雰囲気違った曲になってます。
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