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囚われの女のギルドのレビュー・感想・評価

囚われの女(2000年製作の映画)
5.0
【同一空間に2つの思想 〜事実を論理的に追う男、幻想を感性的に与える女〜】【シャンタル・アケルマン映画祭】
■あらすじ
祖母とメイド、そして恋人のアリアーヌとともに豪邸に住んでいるシモンは、アリアーヌが美しい女性アンドレと関係を持っていると信じ込み、次第に強迫観念に駆られていく。

■見どころ
大傑作!
本作は男性脳、女性脳の恋愛観を題材した映画でそのテーマをハッキリしたものにするために実体を観測⇔幻想を明示する構図に昇華させているところがめちゃくちゃ面白いです!

シモンはアリアーヌが自分よりもアンドレに愛しているんじゃないかという強迫観念に駆られてしまい、彼女の行方を追ったり彼女へ事実確認を行い続ける。
一方で、アリアーヌは日常生活を送りながらもカメラは彼女のありのままを映そうとせずにシモンがあたかもアリアーヌの影を捉えたり、事実通りに情報を開示してくれない。
それどころかアリアーヌを愛する仕草に映写機で過去の彼女を投影して愛するシーンも含まれている。

本作が素晴らしいのは論理的に考える男性脳、感性的に伝える女性脳との恋愛観の違いという普遍的な題材を強固にするためのカメラワークだと思う。
シモンは男性脳の象徴であり、アリアーヌの動向を確認したりハグしたり事実確認をして実体を観測する姿を強調している。
これは事実を論理的に構築して事実を知ることに安心感を持つことを強調している。
しかしアリアーヌは影で表示したり、不透明なガラス越しに彼女の姿をシモンに見せたり嘘も方便とばかりに事実を開示せずに幻想を提供する姿を強調している。

そんな男女の違いを明示するだけでなく、影のみを映してハグしているように見せる理想と実態の乖離を明示したり、階段から真上にいるアリアーヌを眺めたり歩く速度が違ったり、情事では衣服・タオルなどの隔たりを見せる。
そうした隔たりを追跡するカメラワーク、同一ショットの中に実体と影を同時に捉えて見える情報と見えない情報への意味付けを加えるところがサスペンスの駆け引き的な要素があって素晴らしかったです。

特に印象的なのは終盤の車での運転手が違う事(最初にアリアーヌが運転して途中でキスする⇨終着時にはシモンが運転する)、ベッドルームでの情事(シモンは起きていて、アリアーヌは寝るまたは目線をそらす)、車もオープンカーで最初は屋根がある中で二人の会話が続くが、終盤には屋根を解放して会話する。
ここには互いの想いを打ち解ける、関係性の解消、精神世界が閉じていたけど解放するなどの複数の意味合いが存在する。
物語の中で同一空間の中で意味づけだけでなくミスリードさせる展開もあれば変化を齎すシーンを介在してて面白かったです。

■まとめ
強迫観念が徐々に軋轢を生み、思想や相手に求める行動がずれ始める。そこを目線や行動・会話が一致しない。
そして男性脳と女性脳で考えにずれがある普遍的な話に苦悩して選択したけど、軋轢そのものにサスペンスを持たせている。

終盤にはシモンがテラスへ出たり入ったりするシーンがあって、影がシモンの体にくっついたり離れたりするシーンがある。
ここにも同一のシーンの中に実態と幻想が同時に内包して、強迫観念に悩む姿や思想に反する姿に折り合いをつけようとする姿があるが、全体を通じて光と影を効果的に使った魔術師のような技法で駆け引きのサスペンスを持たせた化け物みたいな映画になってる。

そんな不在や間合に意味合いが存在し、影や空間のカメラワークで見える世界に複数の意味づけが存在して、それが物語が進むたびに徐々に変わって予測しない展開を迎える大傑作でした!
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