yukihiro084

海の上のピアニストのyukihiro084のレビュー・感想・評価

海の上のピアニスト(1998年製作の映画)
4.0
トルナトーレ監督作品と聞くと、
(郷愁)と言う言葉が出てくる。

二度と来ない日々。輝いていた日々。
希望に満ち溢れていた日々。
見るもの全てが光り輝いていた日々。

時に、映画の世界の煌めきや
映画館の賑わいや楽しさだったり、
時に、キレイなお姉さんへの憧れや、
初恋に近い儚い記憶だったり。

20世紀初頭。ヨーロッパ移民。
希望に目を輝かせる新移民たち。
新天地。女神。歓声。そして希望。
19世紀末から競い合うように始まった
大陸間大型旅客船の華やかさ。

やがて来る第二次世界大戦の影。移民法
の始まり。新移民が見る厳しい現実。
30年ほどで船の居場所を奪ってしまった
旅客機の台頭。長距離化と大型化。
席はひとつ。大陸間大型旅客船の衰退。

二度と来ない日々。輝いていた日々。
色褪せてゆく日々。どんなに手を伸ばし
ても届かない日々。

郷愁と呼ぶには、残酷で切ない。
トルナトーレ作品ってイメージしている
より、ずっとずっとほろ苦い。

最初は軽やかに始まったその旋律は、
突然、エモーションなものになる。
あのシーン。愛を奏でて。のシーン。
絵画のように窓で切り取られた少女の
ような女性。目で追う主人公。有名な
カット。あのシーンに似たシーンが少し
前にある。主人公が乗客ひとりひとりの
背景を想像して、即興でその乗客だけの
曲を奏でてゆくちょっと楽しいシーンが
ある。『アメリカー!と最初に叫ぶやつ』
は前回観た時も笑ったと思う。そうそう、
そう見えるそう見えると、モリコーネの
天才ぶりを実感する。

籠の中の鳥。何故だろう?ピクサーの
(ウォーリー)を思い出した。
それも冒頭あたりのウォーリー。
捨てられた地球で、たったひとりゴミを
片付ける誰からも忘れ去られたロボット。
ひとりぼっちで、孤独で、恋に憧れて。
でもウォーリーにはイヴがいた。

赤ん坊の頃から船の中だけで育った。
出生届けが出ているかもわからない。
元々この世界に存在していない男の子。
ゆりかご代わりの大型客船。
時代の終わり。残骸。その残酷さ。

変だけど、ショーシャンクの
ブルックス爺さんを思い出す。
または、ベンジャミン・バトンにも
通じる不思議さもある。

古びた楽器屋で語られる、誰も知らない
ピアニストの話。でもその淡い恋は、
彼の曲だけが知っている。
もしかしたら、帰る家。帰るべき場所。
の話かも知らないけれど。

映画(モリコーネ)を観て、観直した
くって。昔、映画館で一度観ただけだが、
観始めたら、スルスルと思い出す。
モリコーネの音楽が簡単に昔に連れ戻し
てくれる。そして昔観たより、深く心を
掴まれる。次は(マレーナ)を観よう。
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