アー君

竜二のアー君のレビュー・感想・評価

竜二(1983年製作の映画)
4.0
だいぶ昔に陣内孝則が出演した「ちょうちん」は見た事はあったが、脚本家として意識はしていなかったが、作品として記憶には残っていた。

「竜二」は拳銃を使った派手な抗争によるタマ(魂の隠語)の取り合いが起きる刺激的な悪漢(ピカレスク)ドラマではなく、地味で生活感を感じさせる心理描写に焦点を当てた人間味のあるドラマとしては秀逸であり、後世に残る映画であったのは頷ける。

映画製作による資金繰りは大変苦労したらしく、脚本と主演を兼ねて夢を追って製作をするあたりはスタローンの「ロッキー」を彷彿させるし、ジョー・カーナハンの「ナーク」も著名な俳優陣(トム・クルーズ、故レイ・リオッタ)のサポートがあって公開できた事を思い出す。実際に自分の娘をキャスティングしたのも予算のためではないだろうか。

ヤクザにもなりきれず、半グレやチンピラとも違う竜二の生き方は不器用であり、そこに惹かれたかもしれない。だが一度渡世人として盃を貰いながら、気まぐれで堅気になれるほどこの世界は甘くはない。引退後の現実は面倒をみてきた元子分達からは金を終始せびられ、借金の肩代わりにさせられることもあり、骨の髄までしゃぶりつくされてしまうのが成れの果てである。あたかも雌カマキリの共喰いのような女々しい捕食を覚悟しなければならない。しかし足を洗った直後は若かったためなのか、当時の景気はバブル手前の上り坂であり、大目に見られていたかもしれない。

2種類の名刺を使い分けるあたりは、過去に田岡一雄は子分達に正業を持ちながら稼業をするように云っていた事を思い出した。田岡は芸能興業や港湾荷役などの業務を担っていたが、反社といえども組織の合理性を垣間見ることができた。

竜二を演じた金子正次は舞台出身とは言いながらも演技としては荒削りなところはあったが、浅黒い肌から時折見せる白い歯を剥き出した笑顔は個性的であり、もう一作でも彼の演技を見てみたかったのが本音である。

本人自身が述べていたが、堅気になった後の子分であるヒロシ(フォーリーブスの北公次)は出世をしたが、兄貴分である直(桜金造)は落ち目になっていく。いみじくも逆転してしまった人間関係を描きかかったようだ。そして竜二の心の中にスジとして歯痒く、やるせない気持ちが残ったのだろう。無言でヒロシに訴える表情に込み上げるものはあった。

とある休日でアゴ&キンゾーが「お笑いスター誕生」に出演しているシーンがあったが、金造を配慮していたのか、作者の気遣いのある微笑ましい場面である。

最後にまた渡世の世界に戻ってしまった理由は色々とあるだろうが、偶然道端で出会ったまり子のバーゲンセールに並ぶ買い物が原因なのだろうか。数日前にヒロシの見違える姿にヤクザであった頃の竜二を思い出し、自ら率先して竜二の身体を求めてきたところで、二人の関係は矛盾はありながらも終わってしまったのではないかと考察している。

主題歌は萩原健一「ララバイ」という歌だが、パンフレットを見るまでショーケンではなく長渕剛だと勘違いしていたが、歌唱法はかなりの影響を受けたのではないかと思う。

脚本兼主演の金子正次が映画公開期間中に亡くなったことにより、話題だけでこの映画が評判になっている側面もあるが、40周年ということで劇場公開された作品を鑑賞したが、お世辞でもなく不朽の名作である事を記しておきたい。

[テアトル新宿 14:10〜]
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