Sari

アマチュアのSariのレビュー・感想・評価

アマチュア(1979年製作の映画)
4.0
2021/06/16 DVD

キェシロフスキ長編第一作『傷跡』に続く、長編第ニ作目。

冴えない中年男性フィリップが、誕生したばかりの娘の成長を撮ろうと8ミリカメラを買う。ある日フィリップは、上司と工場長に呼び出され、工場の25周年記念式典の模様を撮るように言われ、最初は乗り気でないものの素人ながらドキュメンタリーを撮り上げる。そのフィルムは、工場長の検閲で何箇所もカットされたものの、たまたまアマチュア映画協会のアンヌがこれを気に入り、出展を勧められた映画祭で見事三位に入賞を果たす。
フィリップが、カメラが人生の生きがいのように感じ「映画作家」として目覚めていく物語。『傷跡』と比べ輪郭がはっきりとしたテーマ性が感じられ、とても面白いと思った。

本作を観ながら、ドキュメンタリー映画監督キェシロフスキの実体験を元にしたのではないかということを真っ先に感じ、撮りたいように好きなものを撮る、心惹かれた被写体をあるがままに撮りたいという、根底にある彼の思想や信念が主人公と重なり見えてきた気がします。

撮る楽しさや喜びを覚えた素人「アマチュア」。単純に、自己満足の為に撮るなら自由に撮って許されるが、世に映画が出るには検閲で場面がカットされたり、他人に違う捉えられ方をされたり、自分の思いと現実の狭間での葛藤が生まれる。メジャーになればなるほど、理想とのギャップに苦しむことも増えるのだろう。そういった映画作家の宿命のようなものが、本作では成功の陰で犠牲になる職場の上司との関係、家庭生活が舞台裏として描かれている。
キェシロフスキ監督の作品を愛する者にとっては勿論、映画の在り方というものに対して純粋な思いのある方に、本作は是非観て貰いたいと思う作品である。

そして映画監督の私生活というものは、やはり家庭生活において、パートナーに余程の理解がないと成り立たないのだろうなあ。映画監督に職業限定したことではないが、芸術家一般的に言えるかも。また、何かを追求すると同時に、何かを失うのが人生なのかも知れない…。

共同脚本を務めた、主演の俳優イエルジー・スチュエルのクスッと笑える滑稽さと哀愁とを併せ持つ存在感と演技に魅了された。
特にキェシロフスキ作品に出ているポーランド俳優はとても良い演技をするなあと染み染みと思う。
『傷跡』と『アマチュア』がセットになっている円盤での鑑賞だったため、二作品を同時に観れて良かった。
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