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鉄男 II BODY HAMMERの消費者のレビュー・感想・評価

鉄男 II BODY HAMMER(1992年製作の映画)
4.4
あらすじ
妻、カナと息子、みのりと共に平凡な日常をおくっていた男性、谷口朋生
ある日、家族でショッピングに来ていた朋生は突然現れた屈強な男2人に息子をさらわれてしまう
懸命な追跡の末に息子を奪還した2人だったが再び起こる誘拐
誘拐犯への殺意に燃える朋生はその怒りと共に不思議な力を手にし、暴走した力によって息子は爆死してしまう
やがて朋生は男達の属する謎の組織の手で体に更なる変異を起こし、血で血を洗う戦闘へと巻き込まれていく…
というあらすじのSF/アクション/バイオレンス作品

監督、塚本晋也と主演、田口トモロヲの両者の代表作である「鉄男」シリーズの2作目
前作はほぼモノクロで構成された映像とインダストリアルな音響、そして金属に塗れ鉄男となった主人公のビジュアルと激しい敵との攻防を見せる事に重きが置かれ物語自体はあって無い様な物と言って構わない様な荒唐無稽な展開を繰り広げる名作だった
しかし今作はほぼ全編がカラーで青みがかった色彩により無骨で激しいだけではない映像美が楽しめる
そして音楽と物語もやや作風が変わっている
音楽は後半からは前作同様のインダストリアルな音像だが前半はシンセパンクな音楽、エンディングにはニューウェイヴな楽曲が採用されている
物語も一般的な映画と比べるとそこまで重視されてはいないが人間兵器となった朋生の背景と悲哀が割としっかり論理立てて描かれており1作目に比べて親切設計な印象

背景は…
朋生は8歳で里子に出され現在の両親に引き取られた過去を持つがそれ以前の記憶を失っていた
そして彼の体の変異の秘密はその消えていた記憶にこそ隠されている
彼の実の父は人間兵器の開発者であり研究者や実験に自らの子供達を使っていた
その結果、兄弟は父の思惑通り人間兵器と化すのだが完全に覚醒したのは朋生のみ
彼の弟は腕のみが変異している
そしてその弟こそが朋生を付け狙う組織のボス、“やつ”だった…
という物
記憶が消えていたのは人間兵器の開発に取り憑かれ狂気に溺れた父が拳銃片手に妻とセックスした末に妻を撃ってしまい、それを兄弟が目撃
既に変異を起こしていた朋生は父を撃ち殺すが母もまた巻き添えにしてしまう
だがその時、朋生は悲しみや怒りよりも破壊の美しさを感じてしまった事に心を病んで記憶を封じ込めてしまった
という理由
この背景が少年漫画や特撮物の様な魅力を前作以上に増幅させていて素晴らしかった

また“やつ”率いる軍団の描写もシュールさと「魁!!男塾」や「北斗の拳」を思わせる様な雄々しさをこれでもかと詰め込まれていて好きだった
彼らは“やつ”が肉体派のアスリート達を勧誘し体の変異による更なる強さを与える事を餌に集められた者達
それ故に冒頭から集団での激しい筋トレを行う場面があったりもするのだがその筋肉の照りが「鉄男」シリーズの核である金属のそれと重なっていて迫力があった

シュールという事で言うと息子、みのりの1度目の誘拐後に朋生が筋トレをする場面も良い感じに不恰好でついクスッと来てしまった

他にも朋生が大切な存在を奪われて一度怒りに溺れてしまうと能力を抑えきれず助けようとした物ごと壊してしまう、という「シザーハンズ」的な悲哀も良い

あとは何といっても戦闘や暴走の描写が素晴らしい
人間兵器と化した朋生と“やつ”の激しい攻防は銃撃戦や肉弾戦だけでなく鉄の特性を活かして電磁石を使った“やつ”の攻撃
そして戦闘を終えた朋生が“やつ”の手下である戦闘員達を吸収して戦車へと変貌し街を破壊し尽くしてしまう
という2つの場面が特に好きだった
後者は何と言ってもポストアポカリプスの様な崩壊した街並みがかっこいい

こういった世界観を支える役者陣のコテコテでアニメ的にも思える怪演っぷりも前作から貫かれていてそこも最高!

惜しかった点としては前作でも感じた事だけど兵器と金属に覆われた姿が薄暗い廃工場の様な舞台のせいもあって全体がはっきりと見えない点くらいかな
でもそれが逆に巨大で粗い金属塊に包まれた体の重量感を強く感じさせる要素ともなっているのでバランスはまぁ難しいよね…

総合的には前作と同様に映像と音楽がとにかく素晴らしく異形、戦闘、破壊で埋め尽くされた世界観が圧巻でやっぱり大好きなシリーズだな、と改めて
全編英語で撮られたという次作も映像技術の進化や世界的なコアな人気によってこれまで以上に予算を使えたであろう事を思うと今から観るのが楽しみで仕方ない
ゴア描写とかもあったら良いな…
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