tjZero

地獄門のtjZeroのレビュー・感想・評価

地獄門(1953年製作の映画)
4.1
始まってすぐ、観客は戦乱の中に叩きこまれる。
平清盛へのクーデター(平治の乱)。
反乱軍の目をくらますために貴人に偽装し牛車で逃げる女(京マチ子)と、護衛する武士の男(長谷川一夫)。
乱の後、女が人妻と知らされながらも、想いをあきらめきれない男。
戦乱から恋模様へと、話のスケールが小さくなって退屈になるかと思いきや、むしろ研ぎ澄まされて凄みが増す。
平安末期の貴族から武家の社会へとダイナミックに変貌する社会を背景に、身分が上の人妻を奪おうとする男のギラギラとした野心がダークな光を放つ。
全編の色使いも見事で、赤や紫、黄色といったあざやかな貴族の色味に青や黒、銀といった武家のカラーが忍びこんでくる彩りのせめぎあいも物語の薬味となっている。
そして、”一度くぐったら引き返せない”と言わんばかりのタイトル『地獄門』とも不気味に響き合う…。
…これだけ内容が濃くて、上映時間は90分。中身がギッチリ詰まったおせち料理みたい。
tjZero

tjZero