滝和也

菊次郎の夏の滝和也のレビュー・感想・評価

菊次郎の夏(1999年製作の映画)
3.8
北野武であり、
ビートの方のたけし。

たけしくん、ハイの
きたのたけし。

コノヤローバカヤロー
すら愛情の印(笑)

「菊次郎の夏」 

夏、子供ときたら必ずかかるBGM、久石譲先生の「Summer」の軽やかなリズムにのって奏でられる不良中年と子供のロードムービー。色濃くビートたけし流のコントいや、コメディテイストを持ちながら、優しさでホロッとさせられる作品です。

浅草の小学生の正男は、ばあちゃんに育てられていた。仕事で忙しいばあちゃんは夏休みに入ってもどこにも連れて行ってくれない。父は亡くなり母は遠くで働いていると聞いていた。サッカー教室は休み、友達はみんな家族と出掛けた。偶然母の写真を見つけた正男は一人豊橋にいる母の元へ行こうとするが、不良に絡まれてしまう。そこに近所の喫茶店のおカミさんが来て助けてくれた。正男を不憫に思った彼女は旦那を付けて豊橋に向かわせるが…

不良中年、菊次郎。とんでもないオヤジ。たけし演じるそれは自分の父親や浅草の芸人たちがモデルでしょう。たけしの小学生時代をモデルにしたたけしくん、ハイにその原型がある気がします。また子供とたけしと言うシチュエーションは主演した悲しい気分でジョークに見られます。またペーパームーン、チャップリンのキッドと言ったたけしが浅草で見たかもしれない洋画のエッセンスも含まれています。たけしの出自から考えるとそのプロットは彼のノスタルジーに溢れています。

またストレートなコメディはよりビートたけし感が強く、間をたっぷり使ったコントが仕込まれており、昔好きだったファンとしてはその毒が懐かしくもあり、可笑しみも感じますね。特に…ヒッチハイクで車を止めようとするシチュエーションコントはしつこい位に来るのが笑えましたね…。まぁ軍団が出てきちゃうとネタがガンバルマンになっちゃうんでやりすぎな気はしてましたが…。

不器用で傍若無人などうしようもないオヤジが不憫な子供に自分の身の上を重ね、何とか寄添おうとするのが本筋です。ストレート過ぎる内容でまるで照れ屋な北野武がそれを隠そうとしてビートたけし部分の毒や笑いで照れ隠しをしているようなんです。でも良い人感が隠し切れず、溢れ出すのがこの作品の良さだと思います。その毒と笑いの後に来る悲しみ、それに対しての優しさがより対照的に生きて来ます。

正男の母との対面の後に来るシークエンスや祭りの後の二人の姿、そしてどうしようもないオヤジの母との対面が正男の行動とシンクロする辺り…ホロッと来ますよね…。そしてロードムービーには付き物のラスト。さりげなく粋なラストでしたし、あのカメラが追ってく所も良かったです。

事故後の北野武は自分をよりさらけ出す様になってる気がします。この作品は北野武とビートたけしを上手く融合し、不思議なバランスで作られてます。北野武の目は常に優しいにも関わらず、物語はシビアに描かれる。それを照れ隠しの様にビートたけしが現れ毒と笑いを垂れ流す。昔からのファンにはノスタルジーすら感じられる良作でした。
滝和也

滝和也