けんたろう

アンダーグラウンドのけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

アンダーグラウンド(1995年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

カリスマ性が仇と成るおはなし。


さ、さ、最高だ! 圧巻! 究極のところを云ふと、最早や圧巻の一言に尽く!
痛みも苦しみも悲しみも。悦びも昂奮も感動も。不謹慎なんて何んの其の。戦争だつて拷問だつて爆撃だつて。総べてが滑稽。総べてがユウモラス。残酷なる描写さへもが可笑しくて仕様が無い!
見ろ、此の酔つ払ひのお祭り騒ぎを! 歓喜、陽気、愉快。陽光当たらぬ地下空間でさへも此の愉しさ! 嗚呼、クストリツア! 最高だ!

其れから、国境を越えた地下空間などの奇妙且つ緻密な空間設計、虚実入り混じつたニユス映像、随所に見らるゝ大胆な省略なんかも最高である。此の独特の面白さ、可笑しさよ!

然しながらクストリツア。ユウゴスラヴイア人、クストリツア。失くなりし祖国への思ひを抱へたり。
果たして祖国を失ふといふ体験は、想像を絶するものである。我々日本人には到底解りえまい。
而して、其の余まりに壮絶なるものを究極昇華せしラストには、もう感嘆である。

最早や何うしやうもなき大悲劇。成るべくして成つた、取り返しの付かない大悲劇。嘘、裏切り、絶望、死。迚も名状しがたき苦しみが身を蝕む、本作中に於ける可笑しみの一切を排除した──故に強く強く強く印象づけられた──残酷極まる結末。四方八方に飛び散らかつた物語りが綺麗に且つ最悪に収束した終幕。
其れがまさかである! お、おゝ……途んでもない圧倒的な表現。思はず声を漏らしてしまうた。昂奮。感動。笑ひ。涙。凄すぎる。正に此れこそ映画ではあるまいか!

さて島は、彼れらを乗せてぷかぷかぷかぷか。嗚呼、此方ではなく彼方へと──彼れらは確かに其処に居た。彼れらは確かに生きて居た。我々と同じ地平の上で。然し島は行つてしまうた。ぷかぷかぷかぷか。クストリツアの祖国への思ひ。


何うにも成らない無慚なうつゝも、自らの大切なる係恋も、其れから醜き人間の性も、何も彼もを可笑しく映せし最高の表現である。
切なき現実。至高のユウモア。エミイル・クストリツア。私し、貴方を深く深く深く尊敬いたす。