えびちゃん

人情紙風船のえびちゃんのレビュー・感想・評価

人情紙風船(1937年製作の映画)
5.0
映画のなかの雨のシーンは断絶が描かれていて、いつも胸に切ない気持ちが押し寄せる。本作はひときわ切なくてやるせなくてぎゅっと力が入ってしまった。
長屋で繰り広げられる掛け合いがおかしくてくすくすとさせられていたのに、終盤やわやわに詰んだ積み木が崩れ落ち、呆気にとられたままクライマックスを迎えた。
人情というやつは、一見良いもののように思えるが、ひとたび外聞に捉われてしまったらたちまち身を滅ぼしてしまうのか。

説明的なものは一切なく、でも画や表情で過不足なく雄弁に語る。紙風船が地面に落ち、風に揺れるだけで、人が生きていくことを諦めたのだとわかってしまう。
作り手がこれほどにも鑑賞者を信用した邦画をわたしは他に知らない。

山中貞雄の3作品、全部スクリーンで観られて嬉しい。
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