フラハティ

映画に愛をこめて アメリカの夜のフラハティのレビュー・感想・評価

4.8
トリュフォーから、全ての映画に捧ぐ。
トリュフォーより、映画に愛をこめて。


『パメラ紹介します』という映画の制作現場を描いた、トリュフォーの映画愛と人への愛に満ちた名作。

映画は、人を夢の世界へ誘う。
そんな夢の世界を作っているのは同じ人間。
本作は映画の中の映画を描いている。
そこから見えてくるのは、"映画は人生の一部であり、人生は映画の一部である"ってこと。
昼を夜に変える映画のマジックは、人生を映画へと変えるマジックと同じ。


映画制作とは、監督が思い描いたように簡単に進んでいくわけじゃない。
出演者たちの人間関係、テープの紛失、小道具の不備…。
色々なものが滞らせる。
決められた期間に終わらせる。
そしてそこからは編集作業が待っている。

監督役として本作に出演したトリュフォー。
自身を投影したキャラクター、アントワーヌ・ドワネルとしてトリュフォーの映画に出演し続けているジャン=ピエール・レオも本作に出演。
つまり本作は"監督としてのトリュフォー"と"プライベートとしてのトリュフォー"がいる。
「僕と君は幸福は仕事にしかない」と、レオに語りかけるシーンは、映画狂として映画が大好きで大好きでたまらなかった"プライベートの自分"を説得させているよう。
劇中で、トリュフォーの幼少期の記憶として、『市民ケーン』の写真を盗んだり、ゴダールやヒッチコック、ブニュエル、ルノワールなど尊敬する監督たちをリスペクトする。
粋な演出だよね。


どんなに面白くないと感じる映画だったとしても、その裏には多くの苦悩や工夫があったりする。
だからこそ真の駄作なんてこの世には存在しないと思う。
観客は好き勝手に批評したりするけど、その映画に監督の愛があるとするなら、それ自体素晴らしいことだと思う。

本作がすごく好きなのは、トリュフォーの映画への愛はもちろんなんだけど、人に対する愛も見えるところ。
「現場に人が一定期間集まって、愛し合ったと思ったら消えてしまう。」
映画制作とは、決められた期間だけの関係。
一つの作品を完成するための仕事。
その分熱がこもるんだろうね。

こういった作品は独りよがりになりがちで、映画監督って大変でしょ?みたいな感じで終わってしまう。
でも本作は群像劇に仕立てることで、高尚にならず、自慢や嫌みにはならない。
ゴダールのように難解に仕立てず、観客に寄り添っているように思う。
過去に辛い思いがあるトリュフォーだからこそ、ユーモアや温かさを大切にしているんだと思う。
二人の違いはこの点なのかな。
どちらにも良さがあるんだけどねぇ。


本作ベストシーンは冒頭の群衆シーンと雪化粧。
何かが一つでもずれれば印象が全く変わる。
だからこそ多くのこだわりがあり、監督の意図がはっきりしてないと上手くいかない。
作品としては冗長に思えるかもしれない部分もあるんだけど、そういった部分にさえ、トリュフォーのありったけの人への愛が込められているようで、いつまでも観ていられる。

過去の映画撮影は今の撮影よりもムダとも思えることは多い。
だけど、それはそれなりに良さがある。
世の中の全てが効率的に、スピードを求めるばかりってのも何か違うんじゃないかな。
ゆっくり、じっくり、その分良いものが出来上がるんだから。


映画が好きで何が悪い?
人を愛するのと同じで、映画を愛してる。
どんなに面倒でも、大変でも、映画があるから生きていける。
そんなトリュフォーの決意が見えた。
そんな映画がつまらないわけがない。
全ての映画好きへ贈る。
トリュフォーの愛は深い。
フラハティ

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