優しいアロエ

映画に愛をこめて アメリカの夜の優しいアロエのレビュー・感想・評価

4.2
〈F・トリュフォーの映画人賛歌〉

 名だたる巨匠たちにリスペクトを捧げつつ、トリュフォー自身も「フェラン監督」と名を変えて出演。まさに副題「映画に愛をこめて」が示す通り、本作はトリュフォーの映画愛が爆発している。

 『8 1/2』を意識してか、少年時代の夢想シーンが時折入ってくるが、トリュフォーは自分のスタイルを決して見失わない。難解な構造になることはなく、映画づくりに携わる人々の活気と波乱万丈を気ままにスケッチしている。

 さらには、ネコをうまく撮るのに試行錯誤したり、地面に雪を積もらせたりと、撮影裏の地味な作業や根回しなどを本作はけっこう赤裸々に見せてくれる。ゆえに実録的でもあり、『カメラを止めるな!』のような馴染みやすさも備わっていた。

 また、トリュフォー作品のなかでは、小劇場の団員たちを描いた『終電車』と同様、本作も「劇中劇」が人間ドラマによく活きている。
 役者はたとえば半年や1年といった長い撮影期間、ひとりの同一人物を一貫して演じなければならない。しかし、役者自身もひとりの人間。その間に情事なり何なり紆余曲折あるから、演技にも微妙に違いが出てしまうのだ。そしてそれを自分の内側に抑えようとする。これは、舞台裏を描いた本作ならではの妙味といえるだろう。

 タイトル「アメリカの夜」は昼間に夜のシーンを撮るための手法のことを指すが、まさに映画によるマジックの素晴らしさを謳う本作にふさわしい題名だ。
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