〈女も惚れる最高のアンチヒロインの誕生だ〉
本作『テルマ&ルイーズ』は、アメリカン・ニューシネマ、なかでも『俺たちに明日はない』の解放性・反権威性を借用し、新たな女性像を打ち出した。旦那も警察もバカな男は皆置いて行き、2人の女は時代の先へと駆け抜ける。
テルマとルイーズは共に抑圧的な日常から抜け出すために逃避行をはじめたわけだが、実はこの2人には微妙な違いがある。
テルマはカウボーイハットを被ったブラッド・ピット(男性性に男性性を乗っけたような存在)に騙されたりなど、女性としての自覚や尊厳に鈍いところがあり、まだ芯が定まっていない。一方ルイーズは、テルマを襲う酔った男を殺したり、テキサスのことを男性優位的な風潮がのこる州として嫌ったりなど、フェミニズム意識を強く持った人物となっている。
ゆえに序盤は、ルイーズがテルマを守る・教えるといった構図になっていた。しかし、これが次第に変わっていく。テルマのほうが率先して金を盗み、銃を構えるようになっていくのだ(皮肉にもブラピの犯罪学を真似ながら)。
これこそ本作の妙味。テルマとルイーズは、時代を牽引する2人のジャンヌ・ダルクでありながら、テルマの成長を通してこちらの意識変革のそばに寄り添ってくれる、地に足ついた存在でもあるのだ。
私たちは彼女たちに追いつけるのだろうか。少なくともこの映画のなかでは、2人の心境を唯一慮るハーヴェイ・カイテルが、少しだけ彼女たちに近づけただけであった。