滝和也

鉄道員(ぽっぽや)の滝和也のレビュー・感想・評価

鉄道員(ぽっぽや)(1999年製作の映画)
4.1
雪深きその場所で
男はひとり、
笛を吹き、旗を降る

その生涯はその繰り返し
かも知れないが
その一途な人生に
奇跡は舞い降りる…

「鉄道員(ぽっぽや)」

高倉健さん晩年の名作、名コンビである降旗康夫監督、カメラは木村大作さん。雪深き廃線間近の幌舞駅の駅長、佐藤乙松の物語。定年を控えた佐藤駅長は人生を振り返る…娘の死、そして妻…。独り身である彼を心配する親友との事。そんな彼に古びれた人形を持った少女が会いに来る…。

流れるテネシーワルツのスキャットと口笛。雪舞う中に佇む駅員コート姿の男の背中に棚引く哀愁。悲劇すら生んでしまう、心に決めた仕事に一途過ぎる不器用な生き方。人に優しく、真面目。そして演ずるは高倉健さん。

もう充分です。泣けました…
ただただ泣けました。

なんでしょうね。ずっとジワリと来てしまう。どのシーンを見ても。晩年を迎え始めた自分の人生とも重ね合わせてしまう。勿論そんな格好良くはないけれど。

悲劇を生んだ一途な人生が悲しいばかりではない様に…奇跡が舞い降りる訳ですが、そのさりげないファンタジーがこの作品に救いと優しさを与え、心地よいものに変えていく。その作風はフランク・キャプラの作品の様です。無論、邦画いや高倉健さん様にあつらえ、ミックスされたものですが。

健さん…素晴らしいです。大人の男が憧れられる、耐え忍ぶその演技。自然体でありながら、哀愁あるその存在感。ずっと一途に求められる役に没入してきた方だけが出せるそのオーラ…。そして今作では少しお茶目な表情も。突然少女にキスされ戸惑う健さん(^^)も素敵でした。

人生を共にした妻役に大竹しのぶさん。天真爛漫さとストーリーのギャップが更に哀しみを増す、その演技。巧みですよ…。もうね…私も子供がいないので…そうなったらどうしようと思ってしまう…。(妻は明るい楽しい人なので…)

親友役に小林稔侍さん。東映の大部屋俳優から健さんに憧れ、可愛がられた盟友であり、後輩がこちらも健さんと並ぶ名演技を見せてますね。

そして…広末涼子。これが一番の演技じゃないかなと。可愛さ、可憐さ、あどけなさ、全てがその役のためにあるようですよ。健さんとの二人芝居がもう…泣けて泣けて…。

出てくる方全てに味がある…。上手いし、観衆に人生を重ね合わさせる様に自然で。素晴らしい健さんを中心としたアンサンブルです。流石名コンビ降旗監督。雪と健さんと降旗監督の相性は流石に抜群(^^) また木村大作さんのカメラがどこまでも白く美しく、モノクロの中の赤や黒のコントラストがまた美しく、流石黒澤組ですよね。

健さんの大人のファンタジー作品。私にはかなり響きました…。もう泣けて…泣けて…。やっぱり健さんはいいなぁ…。憧れの人です。器用に生きるばかりが人生の成功ではないと教えてくれます。不器用でも真面目に一途で…人に優しく…。それだけでもいいじゃないかと。


追記…志村けんさん。その一途な人生を健さんが尊敬し、出演を願ったと聞きます。見事でした。上手い…これからも映画出てほしかった…。
滝和也

滝和也