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殺人の追憶のohassyのレビュー・感想・評価

殺人の追憶(2003年製作の映画)
5.0
「パラサイト 半地下の家族」の影響でポン・ジュノ監督を観返している。
「宇宙戦争」などつい何度も観返してしまう好きな作品とは別に、いわゆる個人的なオールタイムベストのひとつであろう本作は、まだ今回含めても3回くらいしか観ていないと思う。
観るのにちょっとした決意がいるというか。
でも1番観やすいしますストレートに面白い作品なので、パラサイトでポン・ジュノに興味を持った方は本作から観ることを強くお勧めします。

本作は自分が韓国映画に対して本気で驚きと恐怖を伴った尊敬を抱いた作品で、少し前の「オールドボーイ」と合わせて韓国映画にハンマーでこめかみをぶん殴られた気分になったものだ。
「オールドボーイ」もエンタメ作品として相当だと思ったけれど、本作の重みと実在性、他に類を見ない作品性(ポンジュノ性とでも言うしかない)、撮影、組み立て、そしてラスト、どれを取っても映画の完成形のひとつだと言っていいと思う。

韓国映画全体にも言えることだけれど、ポン・ジュノ作品は役者もすごくいい。
ソン・ガンホ先輩は言わずもがなだが、主演クラスの演者からちょっとしたチンピラ、通りすがりの女子高生、居酒屋の店主に至るまで、すごく印象的で役柄を表現する顔をしている。
イケメンや美女も多いけれど、彼らはただ綺麗なだけではない。
ソウルからやってくるやり手刑事役のキム・サンギョンはかなりのイケメンだと思うけれど、劇中は辛気臭いインテリで追い詰められてどんどんボロボロになっていく。
「グエムル 漢江の怪物」のペ・ドゥナも、スポーツ選手としての浮世離れした感じやどこか狂気を帯びた表情が一筋縄ではない。
「母なる証明」のウォン・ビンは最たる例で、もちろんすごくイケメンなんだけれど、ちゃんと違う。そこには役柄が憑依した生々しい実在性が備わっている。
一方でパラサイトの金持ち奥様など、ただ綺麗なだけの場合はそこに理由がある。

ポン・ジュノ作品は、ストーリーテリングから役者、撮影、ロケーション、美術、まで本当に隙がない上に、映画としてどのジャンルにも当てはめることが出来ないところがもっとも凄いと思う。
特にハリウッド2作を除けば隅々まで監督が行き届いているのが観ていてすごく良くわかるし、何かのジャンルに仕分けされないようにしているのだろうと思う。
しかも社会性や現代性をしっかりと纏いながら、ストーリーや映像が完璧にエンターテイメントなのだから、脱帽するしかない。

コメディを孕んだ警察の堕落を描く社会派からサスペンス、人間ドラマへと玉虫色に変化していく様にただ圧倒されながら、最後にはどの映画とも違う味わいが澱のように体内に降り積もっているポンジュノ性。
到達点を超えた到達点に達している「パラサイト」はちょっと完璧すぎて引いている自分もいて、本作の方がまだ好きが強い気がしている。

ポンジュノ作品はラストカットもまた見事だ。
本作の元となった「華城連続殺人事件」は韓国三大未解決事件とされていたが、昨年犯人とされる人間が確定された。
それを受けて監督が語るには、「この映画を犯人が見る可能性がある、そう思ってラストカットを撮った」と。
映画が完成した時、犯人はすでに別件逮捕で服役中で、映画館で見ることはなかったそうだ(刑務所で何度か観たとか)。
逃走中の犯人がもし映画館で観ていたとしたら、このラストカットにどんな印象を持っただろうか。
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