風に立つライオン

史上最大の作戦の風に立つライオンのレビュー・感想・評価

史上最大の作戦(1962年製作の映画)
4.0
 1962年制作、ケン・アナキン(イギリス関連部門)、ベルンハルト・ヴィッキ(ドイツ関連部門)、アンドリュー・マートン(アメリカ関連部門)の3監督によるノルマンディー上陸作戦を捉えた戦争映画の金字塔である。

 当時の世界的オールスターキャスト総登場による顔見世興行的な部分はあるものの、スケールの大きさや迫力で言えばベン・ハーに匹敵する規模である。

 キャストの一部を掲載してみる。
 ジョン・ウエイン、ロバート・ミッチャム、ヘンリー・フォンダ、クルト・ユルゲンス、リチャード・バートン、リチャード・ベイマー、ロッド・スタイガー、ポール・アンカ、エドモンド・オブライエン、ロディ・マクドウォール、メル・ファーラー、ロバート・ワグナー、ケネス・モアetc
 1人で主役を取れる錚々たるメンバーが並ぶ。
 そしてそれぞれがアメリカサイド、ドイツサイド、フランスサイドと各国の言語系の中できっちり布陣されている。

 やはり戦争映画はリアリズムが命であり、少なくとも国際的な映画である場合、各国の言語で話されることが必須であると思っている。
 有名なオマハビーチでの戦闘シーンは「プライベート・ライアン」を凌駕するものではないが、それでも自由フランス軍コマンド海兵隊が市街地にあるカジノ目掛けて突進し、立て籠もるドイツ軍を戦車で攻撃する長回しシーンは大迫力である。
 建物1階に対戦車砲パック40、屋上には機関砲や重機関銃を据付け、めった撃ちしてくるなか、フランス軍の支援戦車に撃ち込まれると建物が人もろとも崩れ落ちるシーンは圧巻で脳裏に焼きつく。

 CGが未だ登場していないアナログ全盛の時代、人や兵器、物量とも大動員をかけていた分スペクタクル感は掛け値なしに醸し出されていた。
 音楽はあの「アラビアのロレンス」のモーリス・ジャールが担当しているが、主題歌は出演もしているポール・アンカによって作られた「史上最大の作戦のマーチ」でミッチ・ミラーのアレンジで有名になった。小学生の時、掃除の時間や運動会などで「クワイ河マーチ」とともによく流されたものだ。
 原題は「The longest day」でこれはフランスの海岸を視察していたエルビン・ロンメル元帥が予想される連合国軍の上陸の日について呟かれた言葉に由来している。
  
 前述の自由フランス軍の突撃シークエンスもそうだが印象的なシークエンスがいくつかある。

 映画が始まってすぐに、フランスのサン・メール・エグリーゼの教会で「夜の闇が深い時に絶望してはならない」と多くのフランス人に神父が説く場面で、参列していたドイツ将校がこの神父を見つめる件。

「秋の日のヴィオロン(ヴァイオリン)のためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し」

 このベルレーヌの詩の後半がラジオから流れると24時間以内に連合国軍の侵攻が開始されるという件は実にヨーロッパの香りがしていい。日本だとさしずめ「ニイタカヤマノボレ」になるだろう。
 これがいつ流れるかのドイツ側の緊迫感ある描写。
 
 連合国側の長雨に打たれながら、いつ反攻の開始があるのかの苛立ち感いっぱいのジョン・ウェインの演技。
 どうしても西部劇テイストが漂う。

 ノルマンディー海岸を呑気に馬で巡回するおデブのドイツ兵とそれを見てあざけるフランス人農家の親父。

 独軍第352歩兵師団沿岸砲兵隊指揮官プルスカット少佐(ハンス・クリスチャン・ブレヒ)が穏やかな海を双眼鏡で覗くうちに無数の艦船が現れる件。

 ノルマンディーに上陸した連合軍に対しドイツが誇る強力な機甲師団を動かすのに就寝中のヒトラーのかんしゃくが怖くて取り巻きが起こせないでいる中、クルト・ユルゲンス演じる独西部軍参謀総長ギュンター・ブルーメントリット大将が側近に呟く。
 「肝心なこの瞬間に総統が寝ていて起こせない。我々は歴史の証人になるだろう。‥この戦争は負けるぞ」
 そこには独裁者による政治体制が往々にして陥るリスクが垣間見える。
 そして側近に言う。「とっておきのコニャックがあるから飲もう。ナポレオンだ。」
 示唆的である。

 英空軍将校デヴィッド・キャンベル(リチャード・バートン)が足を負傷して動けずブーツを反対に履いて死んでいるドイツ兵のそばで横たわっている時に、隊からはぐれた第82空挺師団シュルツ一等兵(リチャード・ベイマー)がやって来る。
 その彼にふと呟く。

「彼は死に俺は動けずにいて君ははぐれている。戦争というのはそんなものらしい」

 戦争の虚しさ、愚かさなどその本質をほんの短い言葉で言い表わしていて妙であり、ラストにふっと考えさせられ秀逸である。

 各国の有名俳優を揃え壮絶な戦闘シーンがふんだんにある点では「遠すぎた橋」と同様であるが、個々の人間の有様を捉えている分深みが増し、奥行きも出て来ることによって俄然、面白味が増してくるのかもしれない。