このレビューはネタバレを含みます
1981年制作、2022年8月に亡くなったヴォルフガング・ペーターゼン監督による潜水艦戦争映画の秀作で本作の成功によりアメリカ進出を果たすことになる。
初鑑賞は初封切り時、劇場で鑑賞したが、その時の併映がキューブリックの「シャイニング」で違った縮み上がり方であったことを記憶している。
観ている内にいつしか乗組員と同化していることに気付く。
この閉塞感、密閉感は半端ではない。
途中から酸素ボンベをつけたくなるほどの息苦しさと極致の緊張感を味わった記憶がある。
ところで潜水艦映画に傑作が多い。
・アメリカの駆逐艦との攻防を描
いたクルト・ユルゲンス艦長の
Uボートもの「眼下の敵」
・日本の駆逐艦「秋風」との攻防
を描くクラーク・ゲーブル艦長
の「深く静かに潜航せよ」
・近年ではCIAも絡むソ連原潜の
亡命劇を描いたショーン・コネ
リー艦長の「レッドオクトーバ
ーを追え」
・アメリカの原潜内での核ボタン
発射にまつわるリベート大会を
描いたジーン・ハックマン艦長
の「クリムゾン・タイド」
などいずれも硬派でスリル・サスペンスに溢れたものが多い。
そして潜水艦だけにメカニカルで必然密室劇の様相となる。
主役のUボートの母港は現存しているフランスのラ・ロシェルのUボートブンカーでインディー・ジョーンズでも使われていた。
出航時、天井のパイプにはフランクフルトソーセイジ、バナナが吊るされ、棚の箱には乾パンやレモンなどが満載されている。
ディーゼルエンジンの振動が常に体感され、急速潜航時や浮上時には艦内を乗組員達が艦首や艦尾に駆け足移動し、バルブをグルグル回し、メーター針が振れまくる。
このアナログ感が何ともたまらない。
まるで潜水艦アトラクションに乗り込んだみたいでグリースの匂いまでして来るようだ。
魚雷発射ともなれば、距離、速度、発射角、到達時間など瞬時に計算・判断して打ち出すことになる。
爆雷を投下されれば艦壁がたわみ、ボルトが凶弾のように弾け飛ぶ。
やられて海底から浮上脱出するシークエンスでは酸素が薄くなる中、機関担当者達の精魂尽き果てるまでの修理模様に酸素マスクを付けたくなるほどである。
映画館の外へ出た瞬間、あたかも潜水艦のハッチを開けて新鮮な空気を吸い込んだ感があった。
九死に一生で何とか帰路に着くが、母港の土を踏んだ途端に空襲で皆戦死するラストは戦争の皮肉と不条理が湧き上がって来る。
ドイツ人がドイツ人によって創った映画だけにUボートの扱いにも手慣れた感があり、言語も手伝ってリアリズムの極致を味わえる秀作と思っている。
ペーターゼン監督のご冥福を祈ります。