風に立つライオン

ビューティフル・マインドの風に立つライオンのネタバレレビュー・内容・結末

ビューティフル・マインド(2001年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 2001年制作、ロン・ハワード監督による実在の天才数学者ジョン・ナッシュの半生を描いたアカデミー賞作品賞に輝いたヒューマン・ドラマである。

 長きにわたり統合失調症に苦しむジョン・ナッシュをラッセル・クローが演じている。
 アリシアにプロポーズするシークエンスでは弱々しく朴訥に
 「僕らは長続きするかな?愛を保証する確固たるデータが欲しい」
 などとコテコテな数学者を演じている。
 その演技は「グラディエーター」や「マスター&コマンダー」などに比し対極のキャラで素晴らしい演技をしているが、若干オーバーアクトの感は否めない。
 一方で、彼を支える献身的な妻アリシアをジェニファー・コネリーが演じているがこんなに上手かったかと思うような出来でアカデミー賞助演女優賞に輝いている。

 物語は1947年、プリンストン大学院に入学したところから始まる。
 彼は直前にカーネギー工科大学を卒業しているが指導教授からの推薦状には「この男は数学の天才である」と記されていたという。

 「This man is a genius」

 その後、数々の功績が認められ学者であれば誰もが羨むマサチューセッツ工科大学(MIT)のウィーラー研究所に採用される。

 以前、実際のジョン・ナッシュをTVで見たことがあるが、彼はプリンストン大学院時代に打ち立てた理論によって後にノーベル経済学賞を受賞することとなる。
 それまでに若くして数々の数学の難問を解くことに成功していて数学界のノーベル賞とも言われるフィールズ賞受賞の最右翼と目されていた。 
 そして100年以上にわたって数学者を苦しめてきたあの「リーマン予想」が解けたとして1959年に講演会を催す。
 しかしその最中に重大な欠陥が浮上し支離滅裂となり、その時から統合失調症に30年以上苦しめられることになるのだ。
 映画ではプリンストン大学院時代となっているがかなり脚色している。
 このナッシュの後にあのエニグマを解読した映画「イミテーション・ゲーム」のアラン・チューリングが「リーマン予想」に挑むも結局自殺するまで追い込まれた曰く付きの難問である。

 また、病のせいで幻覚をよく見たようであるが、ハワード監督は小悪魔的クラスメートや歳を取らない姪、政府の諜報機関エージェント(エド・ハリス)を用意して映画「シックス・センス」や「アザーズ」的なトラップアプローチにより、実にスリラー&サスペンス感をも醸し出していて秀逸であり、映画に起伏が生まれ、エンターテイメント感の創出に成功している。
 こうしてこの病の持つスピリチュアルな奥深さをデフォルメすることにより、彼の構築した数学世界と実績をなぞる必要もなくなっている。

 そこに妻アリシアの献身的な寄り添いと絆を描きハートフルでヒューマンな薬味を添えている。

 
 晩年のノーベル賞授賞式に臨む夫妻のメーキャップも素晴らしい。

 ラストの壇上からナッシュが会場にいるアリシアに向かって語りかけるシークエンスは感動的である。

 「私は数というものを信じて来た。方程式の解を誰が決めているのか。私の探究は自然科学や哲学であったと思う。そして幻覚にも迷わされてきたが‥戻りました。そして人生最大の発見に行き着いた。愛の方程式の中にこそ本当の解がある。
 私がここにいるのも全て君のおかげだ」
 全員のスタンディングオベイションと万来の拍手に包まれる。

 会場を2人が去ろうとしている時、傍らにあのクラスメートと姪とエージェントが佇んでいたが、ナッシュは苦笑いをしてアリシアと立ち去るのであった。
 いい締めである。