えびちゃん

ユリシーズの瞳のえびちゃんのレビュー・感想・評価

ユリシーズの瞳(1995年製作の映画)
4.2
アンゲロプロス監督の作品はわたしが映画に求める多くの要素をいくつも満たしてくれる気がする。素晴らしかった。言葉もないのだけど、忘れたくないのでなんとか捻り出す。理解しきれていない、もっと深めていきたい。

恐ろしいまでの長回しの多用にうろたえた。総ショット数100いかないのではないだろうか。また大胆な時間軸や人格の移動にも唸らされ、不安を煽る青さや孤独感が募る雪、息するのもためらう霧の描写にとにかく圧倒された。

映画監督の男が眼《まなざし》を探す旅。
マナキス兄弟の未現像フィルムを求めてギリシャ、アルバニア、ルーマニア、紛争中のセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナを旅する。
現在の男、追憶を旅する男、そしてマナキス兄弟が投影される男。それらを行き来しながらの展開に目が離せなかった。
昔の恋人、映画博物館の学芸員、戦争で夫を喪った妻、現像技師の娘、彼に関わる女性たちの使われ方にも一癖あり、全部ひとりの女性が演じている。過去や幻影ともクロスしながら。どこにいても、どんな時でも好きな人に似ている人や似ているパーツなどを感じることができる。探してしまう。でもその人じゃない。そんな虚しさを痛いくらいに表していた。
ルーマニアで親族と過ごす大晦日のシーンはワンカット、ダンスしながらの時間軸の移動に唖然。そして絶望。あまりにも凄すぎて毛穴総立ちだった。
現像技師への訴えと霧の中の慟哭が忘れられない。やっぱりわたしは心に直に訴えかけてくるハーヴェイの切々とした魂の叫びがどうしようもなく大好きだ。
幻のフィルムは混沌のバルカン半島を100年近く時の流れに漂い続け、紛争を繰り返す愚かな人間たちに沈黙のまなざしを向けていた。
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