アメリカンドリームの崩壊。
1967年。
二本の映画がアメリカンドリームをうち破いた。
一本は『俺たちに明日はない』
そしてもう一本は、本作『卒業』
この二本を皮切りに、アメリカンニューシネマが誕生した。
子どもからの"卒業"。
理想からの"卒業"。
アメリカンドリームからの"卒業"。
大学卒業。
ある意味居場所の消失と言える出来事。
ベンジャミンは未来への不安を抱える。
将来はどうすればいいか。
これから先の人生は。
何のために生きているのか。
人生というトンネルの暗闇に一人取り残された青年は、明かりも持たず、さまよっている。
周りの大人たちは、自分に期待をかけているが、今の不安に対する解決策を提示してくれることはない。
ただ大人の言うとおりに従っていれば、人生を導いてくれる。
本作では、大人の言いなりでいれば何とかやり過ごせたことも多かったはず。
反抗することで問題が生じ始め、自らを主張すればするほど社会に埋もれていく。
僕はどうすればいい?
勉強しかしてこなかった真面目な優等生は、自由を得ることで人生に迷い始める。
勉強を教えてくれる場所はたくさんある。
問題の先には紛れもない解答がある。
人生を教えてくれる場所はどこにある?
人生の問題の先には無数の解答があるのに、なんで誰も教えてくれないんだ。
もし本作がアメリカンドリームを突き進んでいたなら、誘惑に手を出したとしてもそれは主人公の成功への近道となり得た。
自分が持っていない純粋さを持った女性に恋心を抱き、相手も同じように惹かれ、ハッピーエンドを迎える。
最後には、悩んだ末に輝かしき未来を辿っている。
そんなことは現実には絶対にない。
アメリカンドリームは、過去にしか存在せず、映画のように上手くはいかない。
60年代、アメリカンドリームは崩れ去った。
不安と悩みを抱えた若者。
明るい未来が遠い場所へと去っていく。
たとえ学歴が優れていようが、たとえ家庭が恵まれていようが、それらには何の意味もなく、これから先の未来を明るく照らす材料とはならない。
映画史に残るラストシーン。
まさにこの当時の象徴。
ハッピーエンドになるかもしれない。
バッドエンドになるかもしれない。
それは社会がどうなっていくかでしかないんだ。
自分たちがいくら努力しようが、社会そのものが良くなければ、人生自体がバッドエンドに終わる。
逆であればハッピーエンドに。
あの二人が見つめる先の未来には、どちらが映るんだろうか。
Simon & Garfunkelの『The Sound of Silence』の歌詞は、本作と見事にマッチしてるね。
若者の言葉は、大人には届かない。
社会には届かない。
だからささやくことしかできないんだ。
『And whisper’d in The Sounds of Silence.(そして、「沈黙の音」の中でささやいた。)』
ダスティンホフマンの表情がいい。
不安とか虚無感とか、"卒業"後の所作とか演じ分けが秀逸だよね。
もうちょい暗めの作品かと思いきや、笑わせてくれるシーンもあるし。
ホテルのスタッフみんなから声かけられてるのほんと笑う。
同じホテル行き過ぎ。笑