マレーシアに生きる人達が日々どんな事を考え、どんなものを食べ、どんな習慣を持ち、どんなことに笑い、どんな歌を歌うのか、これまでにきちんと想像したことがなかった。旅行したことも映画や小説で触れた事もなかったし、他のアジアの国のひとつとしてぼんやりとしか把握できてなかった。
でもこれからマレーシアを思う時、ヤスミンワールドの住人をありありと思い描くことができる。自分を傷つけた相手さえ赦そうとするアニのしなやかな強さを、コップから水が溢れるようにコーランを唱えるアナの清らかな信仰心を、その姉妹のあまりに可愛いフワフワチュッチュな仲の良さを、慌てて靴を脱ぐ時も好きな子の匂いをかぐ時もポーカーフェイスなブライアンを、口は悪いけど命がけで友達を守る最高に格好良いギャルを、おじさんという名の黒猫を。
映画の中の誰かを好きになるたったそれだけのことで、知らなかった国がこんなに近くなる。想いは距離を一瞬で超えて行く。日本の映画も遠い国の何処かでそんな風に受け入れられていたらいいなぁと思う。これからはもっと色んな国の映画を観て行きたいと思ったのと同時に、やっぱり邦画も応援して行きたい。私達の代わりに世界に挨拶してくれる映画には、ヤスミン監督作品みたいに堂々とした良い顔をしてて欲しいから。
