うめまつ

エル・スールのうめまつのレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
4.6
究極の黒というのは、この映画に映し出されている暗闇のことだと思う。透き通りそうなほど濁りがないのに濃密で、何も反射させずに全てを飲み込む完璧な黒。その曇りなき闇の深さに息を呑むほどだ。そこから浮かび上がってくる顔や手の鮮烈さ。琥珀色の光で閉じ込められた魔法のような時間。その美しさを瞼の裏に焼き付けたくてそっと瞳を閉じた。ここに永遠がある。一瞬で消えてしまう永遠が闇に照らされて星のように光っている。

この物語の背景について理解できてないので不謹慎な気もするけど、なかなか純度の高いファザコン映画で自称研究家としては大変満足。ミステリアスパパというのも良いものですね。初聖体拝領式の白いドレスも花冠も可愛すぎたし、教会の奥から独りでぬっと現れるパパの別格感たるや凄い。その後のダンスシーンも完全にエストレーリャの視点で見てた。願わくば自分の幼少期の記憶とすり替えたい。成長してパパも一人の儘ならない人間なんだとわかった時の寂しさ含めて大好き。

絵作りが神がかっていて、もはや物語なんてなくても十二分に絵画として鑑賞出来る。こんな厳かな美しさをフィルムに焼き付けることができる類稀な才能を持っているのに、この一作後30年間も長編映画を撮らなかったなんて人類遺産の損失と言っても過言ではない。未完成?の作品だと聞いていたのでもっと中途半端に終わるのかと思ってたけど、私はこの先に余白がある終わり方で結果的に良かったと思う。(長尺反対)
うめまつ

うめまつ