うめまつ

聖者たちの食卓のうめまつのレビュー・感想・評価

聖者たちの食卓(2011年製作の映画)
4.2
想像より遥かに良かった。音楽もナレーションも一切なく、ただひたすらに食堂の一日をカメラが追ってるだけの映像なので、何してるのかよくわからなかったりもするけど、それが旅行者として迷い込んでぼーっと観察してるみたいで心地良い。

毎日無料で提供される10万食の食事。提供する側は無償奉仕、という俄には信じがたい光景が淡々と映される。でもここで暮らす人々にとってはこれが繰り返される日常であり、脈々と受け継がれる自然な営みなのだろう。手際良く切り刻まれ山盛りになる膨大な作物、ベッドサイズの鉄板で瞬く間に焼かれる大量のチャパティ、浴槽より大きな鍋でグツグツ煮込まれるカレーの海。その作業してる人の横では寝てるおじいさんとかも居て、人口密度も高いし雑然としてるんだけど、ゆったりした時間が流れてるのが良い。

食堂も机や椅子はない。皆一列に座って前にお皿を並べ、配膳係の人がどんどん注ぎ込んで行くスタイル。だからめちゃくちゃ溢れるんだけど当然誰も文句なんて言わない。チャパティ配り係のおじいさんが、最小限のジェスチャーで1枚にする?2枚にする?ってやりとりしててほっこりした。私はこの係をやりたい。(多分人気の係) そして食後にお皿を集めるんだけど、フリスビーかってくらいガンガンお皿が飛んで来るので、受け取り係の人はぶつかって痛そうだし、汁でビチャビチャになってて不憫だった。(多分不人気の係)

ただ黙々と施すための食事を作り、それを宗教も階級も人種も男女も大人も子供も関係なく、等しく並んで食べる姿はもはや神々しくもあり、その情景はここに居る全員の生命ひとつひとつが、等しく尊いものであることの証明に他ならなくて、不意に泣きそうになった。食堂の前の階段がユートピアの入り口のようにさえ見えた。こんな場所が600年も前からこの地球上に存在し続けているということが、人類の希望なのだと思う。
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