踊る猫

花様年華の踊る猫のレビュー・感想・評価

花様年華(2000年製作の映画)
4.2
実に上品な作品だと思った。それでいてこれ以上ないほど濃厚/濃密にエロスが匂ってくる。トニー・レオンとマギー・チャンの共同作業での小説執筆を通してふたりは恋を深め合う。つまり、ある意味では小説を模倣する形で恋は進展していくとも言えるわけで、彼らの恋が「恋に恋する」形のものなのかもしれない。ロラン・バルトの卓抜な言葉を借りれば彼らは「恋愛のディスクール」に則った形での恋をするわけだ。彼らの恋を邪魔する形で現れなければならない配偶者が登場しないこともあって、彼らの恋は終始「ムード」で終わっているようにも受け取れた。つまり、彼らは一時の気の迷いで恋をしていた(ように思いこんでいた)とも読めるのではないかと。だからいけない、とは言わない。逆だ。そのような「頼りない」恋こそが私たちの人生においてはリアルに訪れうるものではないかとも思う。フローベールが『ボヴァリー夫人』の中ですでに「恋に恋する」女性を描いていたそのシニカルな(とも言える)恋愛観を私は勝手にこの映画に見出してしまう(と書いて、我ながら「とも言える」という言葉を使いすぎている「とも言える」ことに気づき、結局恋愛映画は私には向いていないのかなとも思う)。
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