踊る猫

僕を育ててくれたテンダー・バーの踊る猫のレビュー・感想・評価

4.0
清々しい逸品だと思った。要は実にオーソドックスに1人の青年の成長(幼少期から大学入学、初恋から初体験、就職から転身)を描いているのだけれど、その素朴さは多分素材である原作の持ち味をうまく活かしきっているから来るのだろうなと思う。日本では「親ガチャ」というネットスラングが流行っているが、本作ではシングルマザーの養育を経て大家族で育ち子どもなのにバーに入り浸るようになった主人公が、にも関わらず屈折せず育つ健やかさを見せており私も彼に感情移入してしまった(バーのオーナーがディケンズやジョージ・オーウェルを読んでいるのもポイント高い)。悪く言えば無難にまとまり過ぎているとも言えるが、しかし笑えるところをきっちり笑わせておりこの手堅さを決して「守りに入っている」などと非難したくない。私はアホなので夏目漱石『三四郎』を連想してしまったが、男同士のある種むさ苦しいとも言える関係性のホットさに『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のような映画を近傍に置いてみるのも面白そうだ。
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