ひろ

ヒミズのひろのレビュー・感想・評価

ヒミズ(2011年製作の映画)
3.8
古谷実による漫画作品「ヒミズ」を、園子温が監督・脚本を務めて映画化した2012年の日本映画

第68回ヴェネツィア国際映画祭で、染谷将太と二階堂ふみが、マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した

漫画界の奇才・古谷実の原作を、映画界の鬼才・園子温が映画化するなんて、こんな興奮することはない。基本は好きな小説や漫画の映画化は観ない。大抵はがっかりするだけで終わるから。だけど、この組み合わせに期待せずにはいられない。どちらも、似たりよったりの作品が蔓延る世界で、唯一無二の世界観を作り上げてきた人たちだから。

園子温が原作があるものを映画化するのは初めてだ。いつも、自分だけの世界観を築いてきた監督が、映画化するならこれしかないと選んだのが、「ヒミズ」だった。ギャグ漫画のイメージがあった古谷実が、ギャグを排除し、人間の内面を描いた傑作だ。映画化なんて考えもしなかったが、園子温はやってのけた。

驚いたのは、意外にも原作に忠実だということだ。登場人物が増えていたり、住田の友達である夜野がおっさんになっていたり、原作にないシーンや、カットされたシーンはあるものの、重要なところはかなり忠実に再現している。この作品で大切なのは、登場人物のキャラクター性なんかじゃなく、主人公の心理描写なのだから、それさえぶれなければ問題ないのだ。

撮影直前に発生した東日本大震災によって、大きく脚本が変更され、震災後の日本が舞台になり、被災地での撮影も行われた。これにより賛否が分かれた。確かに、まだ震災を受け入れるには早すぎる。しかし、嫌なことから目を背けるのは、日本人の悪いところだ。園子温監督は、未曾有の大震災に、真っ向からぶつかっていった。

普通の人生を平穏に暮らしたい住田。そんな住田を愛してやまない茶沢。しかし、普通に憧れる住田は、普通でいることができない。「立派な大人になるんだ」と叫ぶ住田の声は、むなしく空に溶けていく。しかし、茶沢の存在が、住田の絶望を包み込もうとする。原作とは違った、震災後だからこそ園子温監督が選んだ結末。あのラストは忘れられない。絶望に対して、本当に小さな希望なのに、それが強く心を打つ。

住田を演じた染谷将太と茶沢を演じた二階堂ふみ。マルチェロ・マストロヤンニ賞を2人で受賞するという特例の快挙。この賞は日本では馴染みがないかもしれないけど、ガエル・ガルシア・ベルナルなども受賞した、前途有望な新人に与えられる信頼度の高い賞だ。審査委員長だったダーレン・アロノフスキーが絶賛したのも頷ける。

本当にこの2人の若手俳優の演技が素晴らしい。演出がめちゃくちゃ厳しいので有名な園子温の作品に出演した人たちは、みんな限界を越えた演技を披露する。この2人も園監督によって、新たなるステージに立ったのは間違いない。この2人の素晴らしさは、2人の全力のぶつかり合いで成り立っている。だから、ヴェネツィアでも、ダブル受賞となったのだろう。

脇を固めているのが、園子温オールスターズと言ってもいい、歴代の園子温映画の出演者たち。渡辺哲、吹越満、神楽坂恵、光石研、黒沢あすか、でんでん、吉高由里子、西島隆弘など、園子温ファンならニヤリとしてしまうだろう。さらに、窪塚洋介や鈴木杏といった初出演の俳優も個性を出していた。
まだまだ、語り足りないんだけど、長くなりすぎるからやめときます。

これは、今までにない青春映画であり、恋愛映画だ。だから、受け止められない人もたくさんいるだろう。暴力描写が嫌になる人もいるだろう。ただ、そんな表面上にこの作品の本質はない。すべては最後のシーンに集約されている。しっかりと目を開けて、「ヒミズ」を受け止めてもらいたい。
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