cinemakinori

ある公爵夫人の生涯のcinemakinoriのレビュー・感想・評価

ある公爵夫人の生涯(2008年製作の映画)
3.6
華麗なる衣装と羨まれる美に全てを纏い、自らの意思と自由を犠牲にした強く美しい一人の女性の実話。


「女だったら帰ってこなくていい」

私の実母が、私の妹となる女児の陣痛を迎えたその当日、医療従事者の実父が国外で女遊びをしながら電話で実母に無神経に放った言葉だそうだ。
後に、我が家には生みの母とは別の女が常に同居していて、子供ながらに私たち兄弟は母親とは?愛とは?と疑問を抱きながら幼少を過ごした。
私が11歳の時、母は「ごめんね、ママもう耐えられない」と私に泣きながらそう言い残し、周囲からは羨まれるような見た目だけの無機質な我が家からボストンバック一つで出て行った。
生涯忘れることのない事実を、十数年後に再開した実母から聞かされた時、私は父を激しく憎み、その憎しみを後継者として医師の後を継がぬ裏切りという形で家を出た。
そんな、世間体だけのクソみたいな家系を思い出してしまう程にリアリティのある作品だった。

本編が始まった直後から、なかなかな波乱の様相を醸しており、オープニングて発する公爵の第一声で超絶上から目線クソ人間のフラグが立つ。
当時としてはごく一般的な階級社会の文化の一つだったのだろうが、それが正しかったとしたらその理不尽な傲慢文化は今も受け継がれていたであろうと考えると、やはり結論はくそったれだとしか思えない。
勿論、公爵もその血族としての運命〈さだめ〉と地位に葛藤し続けたであろうが、根底で違うと思えたなら自身の手で世を変えられた権力だって有ったろう。
結局は権力の乱用でしかなく、女性を世継ぎ用の道具や飾りとしか思ってないのは人間としてくそったれだ。

しかしながら、【装飾】する人生を生涯全うしたジョージアナが何不自由なく世間からも羨まれる美の象徴として生き抜いたことは、ある意味正解だったのかもしれない。
そう思うのは、私の実母は我が家を出た後、壮絶などん底人生を送っているからであり、あくまでも私的感情論に過ぎず、歴史的背景や政治論の一切を考慮していない一個人の考察ではなく“感想”。


この作品の見どころは、その胸糞な内容よりもとにかく素晴らしい華麗なる衣装かな。
特に主人公ジョージアナ役、キーラ・ナイトレイのファッションショーは男性目線で見ても本当に美しく素晴らしかった。
マギー・スミスの【眺めのいい部屋】と並ぶ美しさと絢爛さに満ち溢れている。
アカデミー賞他、ショーレースの衣装デザイン賞受賞に納得。


“子供は自由でいいな”

さり気無く漏らす公爵のこの言葉で、安全で不自由な時代の窮屈さを物語っている。
cinemakinori

cinemakinori