踊る猫

晩春の踊る猫のレビュー・感想・評価

晩春(1949年製作の映画)
4.7
芥川龍之介『侏儒の言葉』に「人生の悲劇の第一幕は親子となったことにはじまっている」とあるが、親子関係は悲劇のみならず様々なドラマの源泉でもあるようだ。この映画でも父を慕い傍に居たいと思う一人娘と、その娘を見守る父親の近すぎる関係を丁寧に描いておりそこに小津ならではのコメディ的要素を盛り込む。コメディが入ることでこの映画のクライマックスに該当する笠智衆と原節子の間の関係の不可逆的変化のドラマ性が際立つ作りとなっているのだ。私はスットコドッコイな人間なので、もし原節子が引きこもりだったらと想像してしまった。引きこもりの原節子がこのまま父と一緒に居たいと願い、父親の笠智衆がそんな原節子を諭して大人になるように仕向ける……私だけの読みだろうとも思うのだが、そう読めばこの映画で伝えんとしているメッセージがアクチュアルに感じられるから不思議なもの。ドラマとしては枝葉末節が煩雑ではない力強い構成となっていて、原節子が貞淑そうでありながら実は若々しい少女性を発揮してフレッシュな魅力を発揮するところが見どころであると言える。
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