くわまんG

炎628のくわまんGのレビュー・感想・評価

炎628(1985年製作の映画)
4.5
あらすじ:おい、見ろこの生き地獄を。

1943年、ナチス占領下のベラルーシで、志願兵となった少年の数日間を追った作品。

最初の空襲からノンストップ無間地獄。体液や手足が飛散するようなシーンはほぼ無い代わりに、破綻していく少年の心を傍観するハードな二時間。ただ、鑑賞中の苦痛は思いの外少なく、救いの無い鬱エンドと聞いていましたが、そうは感じませんでしたねぇ。

倫理観を疑われるようなことを言いますが、とにかくカットがね、素人目に見ても美しいんですわ。朝霧に浮かび上がる牛の死体とか、焼け崩れる小屋とか、ビタビタの泥沼とか。背景音は阿鼻叫喚なのに、写実的でゆっくりなカメラワークが異様な静寂を生んでいて、作り手の狂気じみた冷静を感じましたよ。

というのもこれって、虐殺の現場であえて“いつも通りなもの”にもピントを合わせてるんですよねたぶん。「草木萌え牛馬いななき涼風吹き抜ける緑の丘で、今日も人間だけが異常なことをしている」というわけでしょう。壊れていく少年を映す視点も、どこかドライでしたしねぇ。

こういう一歩引いた演出って、グロシーン連打より遥かに高エネルギーで、これまた語弊がありますが、観てて飽きなかったです。鬱映画が苦手な僕でも、何度か観たいと思うほどに。。

そんな抑えめのテンションが、ついに爆発するクライマックスはもう忘れられませんねぇ。凄惨な記憶を葬るように、一発ずつ放たれる弾丸に、カタルシスを覚えざるを得ません。ラストは、彼らに幸あれ的な、僅かな光も見えたように感じました。

ただね、自然なことなんですが、やっぱりナチ公への報復が起こるんですよ。被害者じゃないくせに黙れと言われればそれまでですけどね、いかなる場合もその選択を手放しで称賛するわけにはいかないんですよ。あまりに繊細なテーマですし、『Come and see』ってタイトルが怖すぎですし、それ以上もう何も言えませんけどね。。