マヒロ

熱帯魚のマヒロのレビュー・感想・評価

熱帯魚(1995年製作の映画)
4.0
高校受験を目前に控えた中学生のリョウだったが、頭の中は勉強そっちのけでバスの待合で見かける女の子のことでいっぱいだった。そんな中、街で起こる誘拐事件の犯人と思われる男を見かけたリョウは出来心から後を尾けるが、まんまと見つかり事件に巻き込まれてしまう……というお話。

90年代の台湾映画というと、死や孤独の臭いに満ちた暗黒映画が多いイメージがあるんだけど、今作はむしろハートウォーミングなコメディという感じでだいぶ印象が違った。
題材は誘拐事件というものものしさだが、成り行きで誘拐犯一家と過ごすことになってしまったリョウ少年の二度と同じ体験が出来ない不思議な一夏という感じで、どこかノスタルジックな雰囲気。
誘拐犯一家の川の氾濫で水浸しになった家や、リョウ少年の語る「子供の夢を食べる魚」の話、そして浅瀬の海にいるはずがない熱帯魚の下りなど、ほんの少しだけ浮世離れした独特の世界観が夢みたいな感覚が幻想的で良かった。

誘拐されたリョウを心配する声は、彼の命がどうこうとかよりも次第に「このままだと受験が受けられないかも」という声に変わっていき、ついには誘拐犯までこの子をさらったままだと受験が出来ないと焦りだす。
流石にここまで極端ではないとは思うんだけど、当時の台湾の学歴社会を皮肉っているような形で、本人は妄想がちで勉強なんて全然好きじゃないのに勝手に祭り上げられてどうしても受験を受けたい人みたいにされてるのが可笑しくもあり、無事かどうかすら分からないのに他の人と同じように受験の心配ばかりしている実の父親の様子をテレビで観るリョウのなんとも言えない様子が物悲しくもある。
基本無口な少年なので真意は分からないが、ラストで彼が遠くを見つめる表情や、途中で出会う『熱帯魚』というタイトルの由来にもなるある少女のエピソードなど、単に良い話に止まらない学歴至上主義な世情の世知辛さも感じさせる、深みのある一作だった。

(2021.102)
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