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アンダーワールドのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

アンダーワールド(2003年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

 久々長編鑑賞復活(それもヴァンパイアによって)。

 マトリックス(1999)、バイオハザード(2002)などの諸要素を感じさせ、一見そう言ってしまうと二番煎じに思われなくも無いが、かなりの満足感を味わえた!この時代特有のアクション多めSFは見応えありだな。また、ヴァンパイア(吸血鬼)vsライカン(狼)という二項対立も、物語が進むに連れてどんどん展開していくので飽きない。あと主人公演じるケイト・ベッキンセイルの無表情で凛とした佇まいがカッコ良い。全身レザーのコスチュームはバイオ5のミラ・ジョボヴィッチに似ているが、公開年から言えばかなり先取りしているのでは?(というかマトリックスの影響か)

 ただの二項対立でないのが今作を単なる痛快アクションで終わらせない要素になっている。冒頭の地下鉄での銃撃戦(マトリックスまんまというツッコミは置いておいて)からもそれは既に暗示されている。カットの切り返しは主にヴァンパイアとライカンであるが、そこにのちに重要になるマイケル(人間)も映し出されている。そんでもって実はこのヴァンパイアとライカンとのルーツが辿ると一緒であることがわかるのも面白い。実は異種間での戦いというよりも、実に人間に近い争いが繰り広げられている。そんでもって、人間同士の争いごとが何かと複雑であるように、今作も話が進むに連れて複雑化していく。ヴァンパイア、ライカン、そして人間、その中でもそれぞれの思惑があって・・・。そんなこんなで今作にはそれらを解決する、つまり戦争を終わらせるには至らなず、続編がいくつか作られることになるのだった。漫画で言えば「進撃の巨人」がそうであったように。というか、今作は「東京喰種」ぽい。東京喰種の主人公が人間だったのに喰種になってしまったように、今作のマイケルも人間からライカンへ、そしてひいてはヴァンパイアにさえ・・・。マイケルが、全ての種を経験しつつ、それらの和解のキーになっていく様が良い。結局、全て交配してしまうことが生き残る術なのかもしれない、なんにしろ、人類にしろ(グローバル社会ってそういうことでしょ?)。

 「東京喰種」の名を挙げたが、やはりそういう厨二全開な世界観がそもそも堪らない。ヴァンパイアはわざわざイギリス人の配役のみでその冷酷な感じを出していたり、セットの館も如何にもだ。対するライカンはむさ苦しくかなりマッチョな感じがした。このクールさとマッチョさの対比も面白いが、実はライカンはヴァンパイアに従えていた奴隷種族と判明すると、ただ見た目だけでない、ちゃんとした世界観による裏付けに納得した。しかし、思うに「東京喰種」も「進撃の巨人」も、ある確固たる主人公の視座が強いように思える(「エヴァ」以降の傾向?)。今作は厨二ウケする世界観だが、主人公に青臭さを感じない。青臭い逡巡する姿はある種の醍醐味だが、日本ならではの病理、つまりあらゆる責任が自己に降りかかってくる社会の闇がそれを支えているというのを忘れてはならない。それに、やっぱりそればかりだとくどいし(逡巡は物語を停滞させる)。

 それで言えば、今作の主人公はおそらくどんな作品よりも危機察知能力が高い。歴史は起きたことしか刻まれず、起きることを阻止すれば歴史にならないと誰かが言っていたが、要は映画としてそれ止めたら元も子もないぐらいに未然に防ごうとする力が強い。証拠不十分な内からマイケルがただ重要というのみで彼を先に誘拐したり、まだなんも起こってないのに何世紀も眠ってる長老を蘇らせるし、独走しまくりである。以前、マイケル・ムーアの映画で、ヨーロッパの女性が政治を占める割合が高いほど、リスクを回避する傾向にあるというのを見たことがあるが、それをビシバシ感じた。実際、今作は蘇った長老ビクターの頭の硬さと伝統を守る保守的な考えにより、判断は遅れて出来事は全て”起こって”しまう。その頑固さにはきっとみんな見に覚えがあるだろうが(どこぞの国の政治家連中にビクターを見出すことは可能だ)。

 裏切りと笑い。その怒涛の展開には、我々の期待を遥かに上回る裏切りが付き物である。特に今作、例えば主人公が出血多量で失神して事故ったりする。普通、主人公は出血多量でも乗り切れるのに、まんまと裏切られる。しかもあまりに派手な事故シーンにはちょっと笑ってしまう。また主人公が敵に囲まれた時、相手を滅多打ちにするのがヒーローの常だが、床に銃弾で円を描き、床が抜けて下の階へと逃げたりする。「その手があったか!」みたいな面白さ、そんでもってこのシーンはスローも相まってめちゃくちゃかっこいい(円を描く姿は舞のよう)。その後の怒涛の展開、実はこうこうこうでというのもいちいち驚かされるが、早すぎて笑って乗り切る時もあった。にしてもこんだけ盛り込んで脚本にも粗がそんなに無いように思えるの普通に凄い。

 ちなみに、原作にクレジットされているケヴィン・グレヴィオーは、もともと遺伝子工学を学んでいたとか(だから設定に納得いくものがあるのか)。それでいて彼、今作に出演している。誰かと思えば今作一のガタイの良さを発揮したルシアンの手下役ではないか!原作者がいちばんのムキムキなの笑える。これでマッチョは脳味噌まで筋肉であるという偏見も晴らされた笑。

 ラストあたりでのセリーンとマイケルのキスシーンならぬ噛みつきシーンエモい。彼女が噛み付くことで種の交配がされ、争いの根源であった純潔さを破って超越した存在になり、またマイケルの蘇生もかかっているわけで、恋愛的感情も踏まえ、すごい複雑に意味の絡むシーンだった。ヴァンパイアのひと噛みにはこれぐらいエモいラストが必要なのだ。

 最後は「アングスト/不安」の主人公演じたアーウィン・レダーの血で他の長老が蘇りそうな雰囲気を残して幕は閉まる。そういえば「Uボート」にもレダーは出演していたが、こういう脇を固める癖のあるいい役するね(filmarksで彼の作品未見なのも残すは「アングスト/不安」のみ笑)。今作は敵のルシアンの意外な過去だったり、卑怯者のクレイヴンだったり、ビビって天井に張り付くお茶目なエリカだったりと、個性派キャラも見所だった。アメリア卿がその美貌にしては一瞬で殺されるという裏切りも良い。
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